日本国内の各分野の科学者による意見をまとめて提言する日本学術会議が、東京電力福島第1原発事故による放射線被ばくの子どもへの影響に関する報告書を公表した。
放射線の専門家が名を連ねた報告書では、被ばく量は1986年のチェルノブイリ原発事故より「はるかに低い」、また心配される胎児への影響はないとされた。一方で、大手マスコミのほとんどが報じていない事実に東洋大学の坂村健教授が2017年9月21日、苦言を呈した。
次世代への影響「科学的には決着がついた」
「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題-現在の科学的知見を福島で生かすために-」と題した報告書は、日本学術会議が9月1日にウェブサイト上で公開した。子どもを対象とした放射線の健康影響や線量評価に関する科学的知見や、事故後数年で明らかになった健康影響に関するデータと社会の受け止め方を整理、分析したとしている。注目すべき内容の主な点を紹介する。
まず被ばくによる次世代、つまり胎児への影響について、「原発事故による健康影響の有無がデータにより実証されている唯一の例」としたうえで、事故に起因すると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低く、「事故当初から日本産科婦人科学会等が『胎児への影響は心配ない』と言うメッセージを発信した」。事故から1年後、福島県の県民健康調査で「福島県の妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認された」。さらに専門家の間では「胎児影響」と「遺伝性影響」は区別して考えられており、「胎児影響」は「科学的には決着がついたと認識されている」と書かれている。