記憶や学習をつかさどる脳の大事な組織「海馬」は、加齢によって少しずつ縮んでいく。ところが、「絵本読み聞かせボランティア」活動をしている人は萎縮が抑えられることが、東京都健康長寿医療センターの研究でわかった。
ボランティアという「社会活動」と、読み聞かせという「言語活動」の相乗効果とみられるという。研究成果は、老年精神医学誌「International Journal of geriatric Psychiatry」(電子版)の2017年8月31日号に発表された。
加齢で進む脳の海馬の萎縮が8.2倍も抑制された
J-CASTヘルスケアの取材に応じた、同医療センターの桜井良太研究員によると、脳の海馬は50歳を過ぎると健康な人でも年に平均で約1%ずつ減っていくという。同医療センターでは、2003年から高齢者ボランティアが子どもに絵本を読み聞かせる世代間プロジェクトを立ち上げ、その活動が高齢者の心身機能にどんな効果を与えるか検証してきた。
今回、「絵本読み聞かせボランティア」を続けている男女17人(平均年齢66.4歳)と、ボランティアには参加せず、健康調査に協力する健康モニターの男女42人(同68.6歳)を対象に、海馬の萎縮がどの程度進んでいるか比較した。脳構造を調べることができるMRI(磁気共鳴画像)を使い、初回検査時と6年後の検査時点での海馬の大きさ(容積)を比較した。
その結果、「健康モニター」組は平均で1年に0.7%ずつ減少(6年間で4.1%減少)したのに対し、「絵本読み聞かせ」組は1年に0.09%ずつ(6年間で0.5%)しか減少しなかった。「絵本読み聞かせ」組の方が8.2倍も海馬の萎縮を抑制する効果があったわけだ。
このボランティア活動のどこに、高齢者の脳活動を活発化する効果があるのだろうか。桜井研究員は「この研究は、絵本読み聞かせボランティアと対照群(健康モニター)を無作為に選び、比較した研究ではないため、結果の解釈には注意が必要ですが」と断ったうえで、こう説明した。
「2つの要因が考えられます。これまでの研究で、ボランティアという社会活動が高齢者の脳にいい影響を与えることがわかっています。特に、他人に言われてやるのではなく、自分から進んで責任感と緊張感を持って行なうと効果が上がります。また、効果を上げるには、ある程度人と交流するボランティアがいいのですが、まさに絵本の読み聞かせは子どもたちと交流します」