岡田光世 「 トランプのアメリカ」で暮らす人たち バノンが引用していたフランスの小説

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

「トランプのやり方が、フランスの答えではない」

「移民を排除するトランプのやり方が、フランスの答えではない。ルペン氏やトランプ大統領は、移民をスケープゴートにしている。貧しい人たちや不満がたまっている人たちは、彼らの言葉を鵜呑みにし、すべて移民のせいにしてしまう」

   バスドライバーのフィリップ・ベルナ(59)さんはそう言い切る。

   「でも、文化の違いを克服するのは、たやすいことではない」と、声を落として自分の体験を話し始めた。

「私のアパートの上の階に、アフリカ系移民の家族が住んでいる。大きな音を立て、大声で話し、子供たちは家の中を走り回っている。僕が運転するバスでも、アフリカ系の人がよく大声で携帯電話で話し、周りは迷惑している。でも注意できない。何か言えば、人種差別だと受け取られてしまう。大きな声や音を立てるのは、彼らの文化ではごく普通のことかもしれない。でも、フランスにいるのだから、フランスの文化や習慣を尊重すべきではないか」

   そして、イスラム教徒について話し続けた。「彼らはフランスのどの町にも『モスク(イスラム教の礼拝堂)を作れ』と要求する。彼らにとって祈りの場が大事なことはわかる。でも、ここはフランスだ。フランスにとって、要求をすべて受け入れるのはたやすいことではない。でもそれが実現しないと、差別だと訴える。フランスに来たのなら、フランスのやり方に従うべきではないか。私が日本に行ったら、日本のやり方を尊重し、それに習おうとする」

   移民国家として長い歴史を歩んできたアメリカは、今も移民問題で大きく揺れている。アメリカと異なり、フランスは移民国家としてスタートしたわけではない。国の成り立ちも文化も異なる。移民とどう向き合うか、まだ十分、議論されていないのかもしれない。フランスの移民をめぐる苦渋は、これからも長く続きそうだ。

   ベルナさんが、最後に語ったことが印象的だった。

「でも、私たちも歩み寄りが必要です。フランスでともに生きていくために、私たちも移民の人たちも互いの文化をもっと学び合い、理解し合い、歩み寄る努力をするべきです」

(この項続く)(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


1 2 3
姉妹サイト