同化政策と移民との軋轢
不法移民に対しては、移民の中にも批判的な人はいる。
「充実したフランスの社会福祉を利用するために、こぞってやってくる不法移民を規制するべきだ」とアルジェリア系フランス人の男性(35)は訴える。
一方で、公立校で難民や移民にフランス語を教える30代の女性は、「援助を得るために、実際より若く偽って年齢を申請する若者が多い」としながらも、「でも彼らはとても勉強熱心。フランス人の生徒よりずっと教え甲斐がある」と難民や移民の受け入れを支持する。
私が話したフランス人のほとんどは、移民に対して寛容な意見を述べた。
大工として長年、働いてきたという50代のある男性は、「移民がフランス人の仕事を奪っていると言うが、それはごく一部だ。移民はフランス人が望まない仕事をしていることが多い」と主張する。
企業コンサルタントのニコラ・バジュレスさん(32)は、 「フランスには植民地支配の長い負の歴史がある。しかも、これまで労働力が不足していた時には、進んで移民を受け入れてきた。今更、移民は受け入れないなどと言えた義理ではない」と指摘する。
しかし、バジュレスさんは、移民に対して何も要求がないわけではない。
「移民がフランスに同化しようとしなければ、軋轢も生じる。フランスはアメリカと違い、同化することを求めている。ただ、政府の同化政策が十分とはいえない。移民の多くが郊外の低賃金住宅に住み、そうした地域は救育レベルも低いのは、不公平だ」
イスラム教徒とわかっただけで、就職などで差別される例も指摘されている。
フランス人は自国の文化と言語に強い誇りを持っており、フランス人であろうとする人に寛容だ。まずはフランス人であることが前提で、そのうえで「自由」「平等」「博愛」の精神が存在する。フランス革命後の共和制原則を尊重するため、政教分離も徹底している。
フランスでは公立校でイスラム教徒がヒジャブ(スカーフ)を着用することを禁じている。「宗教色の強い服装やシンボルの着用を禁止する法」によるもので、ユダヤ教徒のヤマルカという帽子や大きな十字架の着用も、同様に認めていない。
さらに、顔を含め目以外の全身を覆うニカブやブルカを、公共の場で身に着けることを禁止した。これは治安の問題も反対の理由に挙げられるが、スカーフやブルカを、女性の男性による抑圧の象徴と見る声もある。
モロッコ人の両親を持つある女性(23)は、「私が通った公立校では、十字架のネックレスを身に付けていた友達は何人もいた。それなのにスカーフ禁止というのはおかしいと思うけれど、フランスで暮らしているのだから従うわ。それが嫌なら、イスラム系の学校に行けばいいのだから」と理解を示す。