日本の新聞は2017年9月、中日間の「島争い」が先鋭化して5周年の連載を掲載したが、この時期、中国の新聞雑誌を見る限り、そこにクローズアップして大々的に報道するメディアは皆無に近い。
確かに5年前には中国でも日本製品のボイコットがあった。ただ、事あるごとに「某国製品ボイコット」を叫ぶ一部中国人の現在の対象は日本ではなく韓国だ。彼らは外国の製品をボイコットすることが、「中国に対して礼を失した国を苦しめることであり、中国は利益だけがあり、ちょっとした問題があったとしても、それは『愛国』のためのわずかな代価である」と考えているようだ。しかし、日に日にグローバル化し、外国に依存するようになっている中国の多くの地方、例えば江蘇省塩城市の人々は、間違いなくそのようには考えていない。
江蘇省塩城市の惨状
『ウォールストリート・ジャーナル』は8月24日の記事で、「中国の民間における韓国製品ボイコット行動が、塩城にひどい衝撃を与えている。それは、韓国の自動車メーカーである起亜(KIA)自動車の中国工場が塩城の現地経済の中で非常に重要な地位を占めているからである」と報道した。起亜自動車の中国での販売数の急激な減少により、塩城の起亜工場の従業員は大幅な労働時間の短縮と減給を受け容れざるを得なくなっている。大規模なリストラは免れてはいるものの、多くの従業員は家族を養うため、宅配便の配達やタクシー運転手をするなど、兼業をせざるを得なくなっている。
この会社の宿舎棟の外で、一部の起亜の従業員が、「7月には3日しか仕事がなかった者もおり、給与も半減している」と語っている。
報道によると、26歳の陳さんという起亜の従業員は、「反韓という感情は自分たちにとって何らよいところはない」と語った。彼は「起亜への懲罰は中国人を失業させるだけ」と考えている。もしこうした反韓行動が続けば、会社はリストラを進めることになるだろう。
起亜は塩城で最大手の雇用主であり、給与待遇も現地のその他の製造業より高い。しかし、ひとたびリストラが発生すれば、少なからぬ波及効果をもたらすだろう。
起亜の現地ディーラーの販売責任者である孫楠(音に基づく漢字表記)氏によると、塩城では起亜の仕事をしていない友人、知人がいない人はなく、自動車業界は塩城の支柱産業であり、起亜のトラブルを願う者などどこにもいない。
伝えられない「中国の損失」
先述の新聞記事によれば、今年3月以降、韓国が中国で販売するすべての商品――自動車から流行曲、周辺商品まで、すべてが大幅に減少している。多くの中国の消費者は、中国政府が韓国に対して懲罰を与えるのに追従し、それまでいずれも大変な人気があったにもかかわらず、もはや韓国に観光に行かなくなり、韓国の流行音楽を聞かなくなり、韓国ドラマを見なくなった。きっかけは中国の同盟国・北朝鮮に対する米韓の軍事戦略だ。
「中国は韓国製品のボイコットを宣言したわけではないが、公式メディアはこうした活動を奨励しており、米国で造られた高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を配備する韓国の対北朝鮮核武装計画に報復しようとしている」と米紙『ウォールストリート・ジャーナル』は書く。
ただ、記事にある中国の公式メディアがこうした活動を「奨励」しているというのは正確ではなく、「黙認」あるいは「容認」していると言うべきであることを筆者は指摘しておきたい。一方で、韓国製品ボイコットが中国に損失を与えることも、中国メディアは意図的に無視しており、塩城の状況についても一切報道していない。
地方自治体の本音
しかし、塩城においてボイコット運動は流行しているとはいえない。塩城は長年韓国との密接な関係を誇りにしてきており、この都市には韓国グルメストリートや韓国語の道路標識があり、高速道路沿線や工場の外側には韓国の国旗が翻っている。
塩城には巨大な韓国工業パークがあり、さらに3社の起亜工場がある。現地のある中国共産党官僚によると、これらの工場には約3万人にものぼる現地雇用者がおり、2003年に起亜が塩城にやってきてから、塩城の規模は2倍に拡大したという。
それ以前は、農業が塩城の唯一の産業だったが、今では発展する製造業の中心となっていて、南方の上海まで達する高速鉄道も建設中だ。広い道路には自動車が溢れているが、そのほとんどが起亜のものである。
先述の官僚は「塩城の成功はほとんどが韓国のおかげ」だという。起亜および起亜を支えるために興った現地の自動車部品供給産業は、塩城の税収の6割程度を占め、塩城およびこの都市のかなりの部分の労働者と起亜の運命は切っても切れないものとなっている。
しかし今年3月~6月、起亜とその親会社である現代(ヒュンダイ)自動車の中国における販売量は61%減となった。前出の官僚によれば、起亜の工場は現在、わずか3割の稼働率であるという。
記事ではさらに、「打撃を受けているのは塩城のみならず、また現代自動車のみならず、これらの会社の中国の合弁パートナーであり、国有自動車製造企業である北京自動車と東風自動車もまた不利な影響を受けるだろう」と記している。
前述の官僚によれば、地方政府はいまその他の地方の投資家を奨励することにより、韓国の塩城経済に対する影響を軽減させようとしているが、このように起亜と共に発展してきた都市がそのようなバランスを取り戻すのには、長い時間が必要であろう。
孫楠氏によれば、新しい減税優遇策と低金利ローンをもってしても、起亜の販売量の巻き返しを図ることはできないでいる。「中国の韓国に対する強硬な立場が、いままさに国内にも損害をもたらしている」と彼は感じているという。
また「起亜の現地の合弁企業の大半は中国のものである」と指摘し、「衝突は中国と韓国のどちらにもいい影響を与えない」と語った。
直に影響を受けているのは韓国企業に勤務して韓国企業の誘致に力を出した地方自治体である。しかし、かれらの声は中国ではほとんど聞かない。
(在北京ジャーナリスト 陳言)