観光庁が、訪日外国人旅行者らから徴収する「出国税」の検討を始めた。2018年度の税制改正要望に「財源を確保するため、所要の措置を検討する」と盛り込んだもので、17年9月15日、有識者会議を設置し初会合を開いた。安倍晋三政権が掲げる「観光立国」実現に必要な財源を確保する狙いだが、日本人の出国者も対象にするのかなど、課題は多く、旅行業界からは訪日客の増加に水を差すとの懸念の声が上がっている。
1億円以上の有価証券を持つ富裕層が海外に移住する際、株式の含み益に所得税を課す「国外転出時課税制度」が2015年に導入されていて、これが「出国税」とも呼ばれていた。もちろん、今回検討されているのは、こういう富裕層への課税とは別物。政府が17年5月に策定した「観光ビジョン実現プログラム2017」の中に「高次元で観光施策を実行するために必要な財源の確保策を検討」と盛り込まれたのを受け、観光庁が研究している。税だけでなく「出国納付金」といった形も考えられるという。
豪州や韓国の例
この財源問題浮上の背景には「観光立国」実現という安倍政権の大方針がある。2016年の訪日客数は前年より2割増えて2400万人を突破したが、「2020年までに年4000万」との政府目標を達成するには、さらに1.6倍以上に増やすという高いハードルがそびえたつ。加えて、東京など大都市や、京都などの有名観光地に集中しがちな外国人観光客に、地方にも足を運んでもらうという「地方創生」からの要請もある。そのため、海外での観光プロモーション強化や国内の多言語対応、出入国管理システムの高度化など多くの施策が必要になるというわけだ。
訪日外国人2400万人に加え、日本人の出国者数約1700万人も含め、例えば1人1000円徴収すれば400億円以上の財源が確保できる計算だ。観光庁の2017年度予算約210億円の約2倍に相当するだけに、観光庁が張り切るのは当然だろう。
具体的に参考になるのは、例えば豪州や韓国だ。豪州の出国税は、航空機や船で出国する人から約5000円を徴収している。韓国は運賃に上乗せして、航空機は約1000円、船は約100円の出国納付金を集めている。
「応益負担」が原則、の指摘も
このほか、メキシコは旅行者税として24時間以上滞在する外国人から約2100円を徴収、米国はビザ免除国の国民に渡航認証申請料約1500円を課し、欧州主要国は航空旅客税などを徴収している。ちなみに、集めた資金の使途は、観光振興のほか、フランスが空港整備、英国は一般財源とするなど、バラつきがある。
だが、出国税の実現には課題が多い。すでに日本の主要空港の国際線では、空港使用料の形で大人1人1000~3000円程度を徴収しており、出国税を新たに課せば『二重取り』の批判は避けられない。日本観光の料金がアップし、訪日客の増勢に水を差す懸念がある。日本人から徴収することには、訪日客を増やすという目的に合わないだけに、日本人にはメリットを感じにくく、反発を招く恐れが強い。
旅行関連業界からは「訪日観光に冷や水を浴びせる」などと反発の声が上がる。中国系メディアでは在日観光ガイドの「日本への旅行に対する外国人観光客の意欲が大きく下がりかねない」といった声が紹介されている。他方、法律の専門家からは「本来、旅行客の増加でメリットを受ける関連業界に税などを課す『応益負担』が原則で、取りやすいところから取るのは安直に過ぎる」(ある弁護士)との指摘も出ている。
具体的な議論は観光庁の検討会が舞台になるが、年末の2018年度税制改正大綱策定に間に合うか、見通しは全く立っていない。