政治はスケジュールが重要だ。その点、5月3日(2017年)に安倍晋三首相が明言した「2020年新憲法施行」は大きなインパクトがあった。これを実行するためには、自ずとそれまでの政治スケジュールが決まってくる。
このスケジュールに反発したのが、左派系マスコミである。5月3日の安倍首相は、憲法改正の中身として、9条1項、2項を堅持した上で自衛隊の明記、教育の無償化だけを例示したのだが、左派系は中身などどうでもよく、とにかく憲法改正に反対なのだ。
国民投票と国政選挙
そこで、加計学園問題が安倍政権打倒のかけ声で追及された。本コラム(6月8日配信「『総理の意向』の正体 加計学園めぐる文科省の『言い訳』」など)で書いたように、結局「総理の意向」などどこにもなく、結果としてフェイクニュースだった。加計学園報道について、日本ジャーナリスト会議(JCJ)が、朝日新聞にJCJ大賞を贈った(「森友学園」報道も含む」。7月19日発表)というのは、今考えても大笑いだ。
その騒ぎの一方で、この改憲スケジュールをよく思わなかったのが、財務省だ。邪推であるが、財務省は、加計学園問題について、自らの地方組織である近畿財務局の失態である森友学園問題への世間興味が薄れることと、消費増税に積極的でない安倍政権の支持率が下がることを内心ほくそ笑んでいたかも知れない。実際には、そんな不謹慎なことはあり得ないと思うが。
「2020年憲法改正施行」から逆算すると、憲法改正の国民投票は遅くとも2019年夏までとなる。国民投票だけで憲法改正の賛否を問うことも可能であるが、政治的な常識からは、19年夏の参院選か、18年12月の任期終了までに行われる衆院選(総選挙)を国民投票にぶつけるのだろう。
現行憲法の初めての憲法改正であるので、周知期間を長くとるために、2018年中のおそらく後半に、衆議院解散をして、国民投票と総選挙とのダブル選挙が、メインシナリオになるのは政治的には自然である。
「実際に今解散する可能性は低い」
このダブル選挙では、2019年10月に予定されている10%への消費増税の是非も当然ながら、総選挙の焦点になるからだ。安倍政権でなければ、法律通りといって争点にならないだろうが、なにしろ14年12月の総選挙では、15年9月に予定されていた消費増税について、増税しないとして大勝した前例が安倍政権にはあるのだ。安倍政権は、憲法改正、消費増税凍結で、国民投票と総選挙のダブルを仕掛けてくる可能性があるので、財務省はおそれているわけだ。
そこで、財務省のとった対応とは、今解散すべきと国会議員に説いているという噂が出ている。財務省の政界工作は巧妙なので、その真偽はわからないが、たしかに、急に解散という話が出ている。
それをもっともらしくする話として、民進党の体たらくがある。前原民進党は、山尾問題でガタガタである。加計学園問題での勢いはどこにいったのか。それに、各種調査で、内閣支持率も若干回復した。
政治には常に流言飛語が飛び交っている。今、衆院を解散すれば、ふたたび3分の2の改憲勢力は可能という甘いささやきもあるが、冷静にみれば、今の時点で解散すれば、過去の政権支持率や自民党支持率から推計すれば、せいぜい250~60議席にとどまる(衆議院サイトによると、自民党・無所属の会<会派略称「自民」>の所属議員数は「288」<8月23日現在>)。
解散風は適度であれば、議員の緊張感を維持するためには好都合なので、安倍政権としても適当に解散風は賛成だろうが、実際に今解散する可能性は低いと筆者はみている。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「日本を救う最強の経済論」(扶桑社)など。