スティーブン・キングの名作ホラー小説『It(イット)』で主人公たちを恐怖に陥れる怪物はピエロの姿で登場するが、これに限らずピエロが恐怖の象徴のように描かれることは少なくない。
2016年には米国各地で不気味なピエロに追いかけられた、監視されていたとする報告が相次ぎ、「ファントム・クラウン」として警察が捜査する事態になったほどだ。
本来はジョークや滑稽な動きで人を笑わせる存在であるはずのピエロが不気味に思えるのはなぜなのか。心理学者が真面目に研究をした結果が発表されている。
曖昧で予測不能な存在
研究を行っているのはイリノイ州ノックス大学心理学部のフランシス・マクアンドリュー教授だ。豪州の学術メディア「THE CONVERSATION」の2017年9月8日付の記事の中で、マクアンドリュー教授は「ピエロが恐怖の象徴となったのは、いくつかの理由がある」と指摘している。
例えば、米国では1970年代に少なくとも30人以上を殺害したジョン・ゲイシーが、普段はピエロの恰好で子どもたちを楽しませる慈善家として活動していたことが知られている。一定の年齢以上の米国人は、無意識にピエロと連続殺人犯のイメージを重ね合わせている可能性があるという。
しかしそれだけでは多くの人がピエロに不気味さを感じる理由にはならない。そこでマクアンドリュー教授は、人がどのようなものに対して不気味さを感じるのか調査を行った。
18~77歳までの健康な成人1341人を対象に、さまざまな視覚的な特徴、行動的な特徴、職業や趣味の特徴などをリストアップし、何に対し不気味さを感じているのか評価をしてもらうというもので、収集した回答を総合的に分析。「不気味さ」の正体を探っている。
この調査からわかったのは、まず多くのピエロがそうであるように、女性よりも男性のほうが不気味に思われるということ。
そして、独特の笑顔や長すぎる指、不自然な目のサイズといった身体的特徴に不気味さを感じる人はほとんどおらず、多くの人は「曖昧さ」や「予測不能な様子」を不気味だと感じることが明らかになったという。
そして、これが当てはまるのがピエロという存在だとマクアンドリュー教授は指摘している。
「ピエロがよく身につけているかつらや大きな赤い鼻、真っ白なメイク、派手で異様な衣服はピエロの正体やアイデンティティを曖昧にさせ、掴みどころのない雰囲気を作り出しています。また彼らはいたずら好きであり、次にパイを投げつけてくるのか、顔に落書きをされるのか予想もできません。不確実性の塊であるピエロは、言い換えれば不気味さの塊なのです」