横綱・日馬富士の「待った」は通らなかった。立ち合いの瞬間、関脇・琴奨菊の肩をポンポンと叩いてやり直しを主張したが、立ち合いは成立したと判断され、日馬富士は無抵抗で寄り切られた。
「何が起きたのか一瞬分からなかった」。阿武松(おうのまつ)親方(元関脇・益荒雄)はNHK中継の解説でそうこぼした。
ぶつかり合った瞬間、琴奨菊の肩をタップ
2017年9月12日の大相撲秋場所3日目、結びの一番の日馬富士対琴奨菊戦は、制限時間いっぱいで立ち合いを迎えた。ぶつかり合った瞬間、日馬富士はすぐに上体を起こし、琴奨菊の右肩をタップする「待った」の合図を送った。しかし行司は待ったを取らずに立ち合い成立とした。日馬富士は無抵抗で寄り切られた。審判団から物言いもつかなかった。
日馬富士は敗れてからも行司のほうを向いて右手をあげ、待ったを主張していたが、取り合われなかった。釈然としない表情で立ちつくしてから、土俵外へ出ていった。
「待ったなら待ったで、手をついてしまっているから、『待った』と大きい声で叫ばないといけない。立っているから(立ち合いは)成立。仕方ない」
この日NHK解説をつとめた貴乃花親方(元横綱)はそう述べ、立ち合い成立に疑問を挟まなかった。向こう正面で解説した阿武松氏も、多少混乱したようだが同意見だった。
「向こう正面から見ていて、何が起きたのか一瞬分からなかった。横綱は待ったと言うが、手をついているから(待ったは)成立しない」
日刊スポーツやスポーツニッポンの報道によると、山科審判長(元小結・大錦)は取り組み後、「(日馬富士は)自分から突っかけてるからね。言葉は悪いけど、中に入られたから『待った』と言ったんでしょ」と厳しく「ダメ出し」した。
元雅山、待った成立は「行司や審判長が決めるもの」
ただ琴奨菊の手は地についていないようにも見えた。日馬富士はこれを見て取り直しを図った可能性がある。ツイッター上では「確かに琴奨菊の手つきが不十分だったかもしれないが日馬富士もそれを見て手を抜いたしまったのは良くなかった」(原文ママ)との指摘もあるが、立ち合い成立への疑問が噴出している。
「琴奨菊vs日馬富士、何かすっきりせんなあ」
「せめて物言い付けるなりして土俵上で説明したならまだしも微妙な空気のままシャンシャンってのは無いでしょ」
「よく見ると、日馬富士は手をついていたのに、琴奨菊は両手をつかずに立っている。行司が待ったをかけてもよかったのではないか」
さらには日馬富士がモンゴル出身横綱であることに絡め、「菊(編注:琴奨菊)は明らかに手をついてない。モンゴルいじめ」「モンゴル勢が変化すりゃ協会総出でバッシングするのに」との書き込みもみられる。
元関脇・隆乃若の尾崎勇気氏も13日未明、ツイッターで違和感を示した。
「もし琴奨菊が立ち合いで完全に両手をついていたならば、勝手に待ったと判断し、力を抜いた日馬富士の100%ミスになるが、もし日馬富士が『相手が手をついていないのが見えたので待ったをした』と判断した場合は日馬富士はルールを守ったのに負けにされたことになる」
一方、元大関・雅山の二子山親方は12日夜、日馬富士の「油断」を指摘するようにツイートした。
「日馬富士は不服そうでしたが、立ち合いの待ったは自分で決めるものではない。行司や審判長が決めるもの。だから決して力を抜いてはいけない。私はそう教えられてきた」
日本相撲協会の寄附行為施行細則附属規定の中にある勝負規定5条は「立合いは腰を割り両掌を下ろすを原則とし、制限時間後両掌を下ろした場合は『待った』を認めない」と定めている。それでも二子山氏の言葉を借りれば、最終的に待ったか否かは「行司か審判長が決めるもの」ということになる。