2015年に世界的流行が発生し、世界保健機関(WHO)が「緊急事態(PHEIC)」宣言した「ジカ熱」。
その原因となる「ジカウイルス」が脳の悪性腫瘍のみを破壊できる可能性がある、とする研究結果が米クリーブランド・クリニックやカリフォルニア大学、ワシントン大学などの共同研究チームによって2017年9月5日に発表された。
正常な細胞は残したまま腫瘍を死滅させる
ジカ熱は蚊が媒介するジカウイルスに感染することで発症する感染症だ。2015年ごろに中南米で流行し、2016年には東南アジアやアフリカにも感染が拡大。さらに日本や欧米でも感染者が確認される事態となった。
2015~2016年の間に全世界で400万人以上の感染者が報告されたが死者はゼロで、成人が感染してもほとんど無症状で問題はない。
しかし、妊婦が感染すると小頭症の子供が生まれるリスクや、ギラン・バレー症候群発症リスクが上昇するため危険であることには変わりなく、世界各国でワクチンや治療法の研究が進められている。
米国でも米国立衛生研究所(NIH)が資金を提供し各大学や研究機関でジカウイルスやジカ熱の研究が行われていた。その中でジカ熱に感染した実験動物の脳腫瘍が縮小する例が確認。
「ジカウイルスが正常な脳の神経細胞は残しつつ、腫瘍ができた細胞だけを破壊できるのではないか」との仮説のもと、クリーブランド・クリニックやカリフォルニア大学、ワシントン大学が検証に取り組んだ。
研究チームはまず、天然の状態のジカウイルスと遺伝子組換えによって体内で増殖しにくいように操作したウイルスの2種類を用意。「膠芽腫(こうがしゅ)」と呼ばれる悪性の脳腫瘍が生じた患者から摘出した組織サンプルを2種類のウイルスに感染させ、経過を観察した。
すると、どちらのウイルスに感染した場合でも正常な神経細胞は未感染だったのに対し、腫瘍細胞はウイルスに感染し死滅することが確認された。試験管内で脳の細胞配置を疑似的に再現したサンプルでも、同様の結果が確認されている。
人為的に脳腫瘍を発生させたマウス実験でも、ジカウイルスに感染したマウスは腫瘍の増殖速度が低下しており、未感染マウスの生存日数が20~30日だったのに対し、感染マウスでは50日以上生存したという。
膠芽腫の標準治療は薬を用いた化学療法だが、化学療法とジカウイルスを組み合わせた場合さらにマウスの生存日数は延長しており、化学療法の効果を強化している可能性もある。