仕事中に何のアイデアも浮かばずに苦しむ経験をした人は多いだろう。そんな時、キュッと缶ビールを1本飲むと脳の創造力が活性化するという、左党には願ってもない研究が発表された。
オーストリア・グラーツ大学のチームが心理学専門誌「Consciousness and Cognition」(電子版)の2017年7月10日号に発表した。効果は絶大だが、職場で飲めないことと飲みすぎは禁物なことが玉に傷だ。
「芸術家にアル中が多い」伝説を追うと
アルコール中毒に悩みながら、芸術家として偉大な業績を残した人は多い。画家のロートレック、ユトリロ、作家のヘミングウェイ、フォークナー、エドガー・アラン・ポー、カポーティー、ジェイムズ・ジョイスなどなど。
論文要旨によると、研究チームのニール・ピーターセン博士(心理学専攻)らは、昔から伝わる「アルコールと創造的活動に関する多くの伝説」がどの程度信ぴょう性があるか、調べることにした。具体的には、ほどほどのアルコール量が創造的な認知能力に与える影響をテストで比較した。
まず、19~32歳の男女70人をビールでアルコールをとるグループと、ノンアルコールビールを飲むグループに分けた。ビール組の飲む量はアルコール血中濃度が0.03%になるようにした。この濃度がどのくらいの酒の量かというと、ちょうど日本の警察が「酒気帯び運転」として取締りをする基準と同じだ。体重約70キロの人が缶ビールを1本飲んだ量くらいに相当する。
そして、2つのグループの人に次の3つのテストを行なった。
(1)実務能力のテスト:アルファベットが次々にランダムに画面に表れる。その文字が2回前に表れた文字と同じだったらすぐにキーを押す。記憶力と瞬間的な作業能力が問われる。
(2)創造力のテスト:一見、関連性がなさそうに見える3つの単語から1つの言葉を連想させる。たとえば、論文要旨で提示した例は、「コテージ」「ブルー」「ケーキ」というもの。この場合、リンクワードは「チーズ」だ。コテージチーズ、ブルーチーズ、チーズケーキを連想するのが正解。柔軟な発想力が問われる。
(3)総合的な思考力のテスト:「傘」や「靴」などの言葉を次々に出し、どのような使い道があるか、できるだけ多く提示する。これは1つの事柄を多様な視点から考える能力が問われる。
ほどほどの酒は集中力を弱めて視野を広げる
テストの結果は、ビールを飲んだ組は、シラフ組に比べ、実務能力の成績はやや悪かった。総合的な思考力はほとんど変わらなかった。創造力のテストが非常によく、100ポイントのスコア中、12ポイント近く上回った。ほどほどのアルコールに、いいアイデアをモリモリわかせる効果があることが確認された。
今回の結果について、ピーターセン博士は論文要旨の中でこう語っている。
「ほんの少しのアルコールでも実務能力が失われることは、予想通りの結果でした。しかし、3番目の総合的な思考力に影響を与えなかったのは意外です。何より、創造力のアップが素晴らしい成果でした。私たちが皆知っているように、認知能力のピークとアルコールは一緒になりません。酔いが回ると集中力が落ちるからです。その代わり、集中力を緩めると、それまで1点に集中して狭くなっていた視野が広がり、意識の下にあった思わぬ発想が浮かんでくるのです。アルコールは、1点集中型の思考プロセスでは思いつかないアイデアを生み出す際には有効と言えるでしょう」
ただし、せっかく生み出したアイデアを評価し実行するためには、実務能力と総合的思考能力が必要だ。これらの能力は飲みすぎると一気に低下するから飲みすぎは逆効果と、ピーターセン博士は釘を刺している。