【水害日本・福岡県朝倉市の今(2)】
5年前も大雨‥立ち直ったらまた悲劇が

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   福岡県朝倉市では、5年前の2012年にも今回と同じく政府の激甚災害指定を受けた水害が発生していた。当時も家屋の浸水や河川への被害が出たが、取材に答えた地元住民は一様に「今回の方が圧倒的にひどい」と話した。

   歴史を紐解くと、300年前にも豪雨災害が起きているこの地域。河川の改修、流木への対策をはじめ、「次」に備える準備を整えなければならない。

  • 杷木林田地区で、被災した家々にボランティアが向かう
    杷木林田地区で、被災した家々にボランティアが向かう
  • 寺内ダムでは流木の撤去作業が続くが、奥にはまだ数えきれないほどの木が見える
    寺内ダムでは流木の撤去作業が続くが、奥にはまだ数えきれないほどの木が見える
  • 大量の土砂と流木で多くの家が被害にあった
    大量の土砂と流木で多くの家が被害にあった
  • うず高く積まれた流木だが、処理されたのはごく一部にすぎない
    うず高く積まれた流木だが、処理されたのはごく一部にすぎない
  • 川の水はいまだに濁った色のまま。水害対策に土嚢が積まれていた
    川の水はいまだに濁った色のまま。水害対策に土嚢が積まれていた
  • 杷木林田地区で、被災した家々にボランティアが向かう
  • 寺内ダムでは流木の撤去作業が続くが、奥にはまだ数えきれないほどの木が見える
  • 大量の土砂と流木で多くの家が被害にあった
  • うず高く積まれた流木だが、処理されたのはごく一部にすぎない
  • 川の水はいまだに濁った色のまま。水害対策に土嚢が積まれていた

家に入り込んだ水があわや2階に

   朝倉市は2006年、旧甘木市、旧朝倉町、旧杷木町が合併して誕生した。総面積は246.71平方キロと福岡県で4番目に大きい自治体となる。総面積の約55%を森林が占める。記者が甘木から杷木へ車で移動した日は天候に恵まれたが、一般道で30分程度を要した。山道に入ると、復旧作業中の場所も多い。

   2017年7月5日の九州北部豪雨で赤谷川が氾濫し、大量の土砂や流木で家屋が大きな被害を受けた杷木林田地区を9月3日に訪れた。残暑が厳しいなか、ボランティアの人々が複数の家の中で清掃作業をしていた。既に泥のかき出しが終わっていた家もあるが、住める状態とは言えない。

   自宅が被害を受けた男性(62)は、「何とか家を直して、戻って来たい」と話す。大雨の日は2階で難を逃れた。だが家に入り込んできた大量の水は、あわや1階と2階を結ぶ階段の上部まで達しそうだった。その泥の跡は、記者が訪問した時点でも壁にクッキリ残っていた。5年前の大雨の際、この家は床上まで水に浸かったが、今回は「けた外れ」の猛威だった。

   この男性の家の近所では、高齢の女性が一時的に戻って来ていた。今はアパートに住むが、それまで長期にわたる避難所暮らしで足の痛みがつらかったという。5年前の豪雨では多くの家財道具が使えなくなった。徐々に新しく買い揃え、元の生活を取り戻したところに今回の集中豪雨が襲いかかった。「またここに戻ってくるのは、無理かもしれない」と悲しそうな表情を浮かべた。

   少し離れた白木谷川の近くでは、男性が自宅の片付けをしていた。聞くと、ボランティアがまだ誰も来ていないのだという。暑さのなか、手助けなしの作業は相当厳しいに違いない。

挿し木の植林スギが流木被害拡大した?

   朝倉市にある南淋寺には、江戸時代の1720年にこの地域で発生した水害を記録した古文書が残されている。2017年8月4日放送の「今日感ニュース」(RKB毎日放送)によると、記録されていた地域は、今回の九州北部豪雨の被災地と重なるという。一方で、当時の水害では流木に関する記述がほとんど出てこない。番組では、今回の大雨で大量に発生した流木が、山に植林されたスギがほとんどだと指摘した。

   京都女子大学の高桑進教授が2012年3月1日に発表した論文「杉と日本人のつながりについて」には、スギの植林で「九州地方では、ほとんどが挿し木苗」とある。さらに、「熊本県で、『植えない森づくり』を進めておられる平野虎丸氏によれば、最近の土砂災害で目立つ斜面崩壊の場所は、挿し木苗のスギを移植した所であると主張されている。その理由は、挿し木苗のスギは根が横にしか伸びていないので、大雨が降ると倒れやすいからだと言う」と書かれていた。

   この点は「今日感ニュース」でも言及があった。挿し木のスギは根が浅く、大木に成長すると不安定になる。傾斜のきついところに植林した場合、流されやすいというわけだ。

   大量の流木による被害の拡大は、九州北部豪雨の特徴と言えるだろう。撤去された流木の集積所に行くと、ごく一部とはいえその量と巨大さに圧倒された。黒川地区にある寺内ダムでは、重機を使って流れ込んだ流木を撤去する作業が続いている。豪雨直後は水面が流木で見えなくなるほどだったそうだ。今でも相当の量が残っているように見える。最後の1本が取り去られるのは、いつになるのだろうか。

   国土交通省九州地方整備局は2017年7月28日、九州北部豪雨による流木の発生量が約21万立方メートル、重量にして約17万トン(速報値)だったと発表した。山林由来のものが全体の63%にあたる約13万立方メートルだという。また福岡県は、九州北部豪雨の県内の被害額について、8月20日時点で1941億円程度と発表している。県によると、5年前の水害では被害総額が約521億円だったので、今回の豪雨災害は現時点で既におよそ4倍の規模に達していることになる。

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