肥満は乳がんや肝臓がん、大腸がんなどいくつかのがんの独立したリスク因子(それだけでリスクを上昇させる要因)であることはよく知られている。
これまでなぜ肥満によってがんリスクが上昇するのか、そのメカニズムはわかっていなかったが、米ミシガン州立大学とイェール大学の研究者らは、マウスを用いた実験によって肥満にはつきものの「内臓脂肪」がリスクを高めている可能性を見出したという。
過剰な脂肪が細胞のがん化や、がん細胞の増殖を促す物質を分泌していたのだ。
内臓脂肪が分泌する「FGF2」が原因
肥満とがんの関係は特に米国で危機意識が高まっている。米国立衛生研究所(NIH)は今年発表したレポートの中で、「先進国で予防可能ながんの要因は喫煙がトップだが、米国ではすでに肥満がこれに取って代わりつつある」と警告。肥満とがんリスク上昇の関係を解明すべきだとする声が上がっていた。
そこでNIHや米国立がん研究所(NCI)、保健福祉省乳がん研究プログラムなどが研究資金を提供し、ミシガン州立大学とイェール大学が原因解明に取り組んだ。
研究者らが注目したのは肥満という状態そのものではなく、肥満によって体内で増加しているもの、つまり内臓脂肪だった。
この内臓脂肪が何らかの形で正常な細胞をがん化させたり、がん細胞を増殖させていると考え、マウスによる比較実験を行っている。その内容は、マウスを「低脂肪食」「高脂肪食」「通常食」を与えるグループに分類し、それぞれに「紫外線B波(UVB)」を照射。がん細胞を増殖させ、内臓脂肪と腫瘍の成分分析を行うというものだ。
分析の結果、高脂肪食を与えられ内臓脂肪が過剰になったマウスの体内では、血管新生や傷を治癒させる成長因子として作用する「線維芽細胞増殖因子」の一種、「FGF2」が大量に産生されていることが確認された。
さらにFGF2は受容体(因子に反応してなんらかの働きをする物質)を持つ細胞を刺激してがん化させたり、すでに腫瘍となっている細胞を増殖させていることもわかったのだ。
がんと診断された人の内臓脂肪サンプルの分析を行ったところ、マウスと同様にFGF2が高濃度で含まれていることも確認しているという。
減量は誰でもできるがん対策
今回の研究が示す結果はいくつかある。まず、肥満はやはりがんリスクを上昇させる要因だったということ。ただし、単に太っていることががんリスクの上昇を示すわけではなく、BMIや体重を指標とするのは不適切かもしれないという点だ。
研究結果が正しければたとえ太っていても、内臓脂肪ではなく皮下脂肪が多ければがんリスクは上昇しない。単純な重さではリスクの多寡を評価できず、脂肪の種類を調査しなければいけないことになる。
研究者らはFGF2の作用を止めることができればがん治療も行えるのではないかと考え、FGF2やその受容体を阻害する化合物の研究を検討していることも明らかにしている。
もちろん、研究の限界もある。FGF2ががん化を進めていることは確かだが、内臓脂肪はFGF2以外にもさまざまなホルモンや成長因子も分泌している。よりがんリスクを高めている物質が存在している可能性は否定できない。
そもそも研究自体が動物実験を元にしており、サンプルで確認したとはいえ人でも同じことが起きているかどうかは不明だ。
内臓脂肪がすべての答えというわけではないが、禁煙と同じように適正体重を維持するという手軽な方法でがんリスクを抑えられるのであれば、減量に取り組まない理由はないだろう。