金融庁が2018年7月に、金融機関の経営健全性をチェックする検査局を廃止する。バブル経済崩壊後、銀行に苛烈な検査を実施して不良債権処理を迫り、金融庁を代表する存在だったが、金融機関が健全性を取り戻した今の時代に合わせて組織を再編する。1998年に金融行政が旧大蔵省から分離されて以来の組織大再編は、就任3年目に入った森信親・金融庁長官の改革の総仕上げとなる。
「金融機関の育成を優先する時代になったので、体制を変えていこうという趣旨だ」。麻生太郎金融相は17年8月29日の記者会見で、検査局を廃止する狙いについてこう説明した。
「不良債権比率の低下」と「副作用」
検査局が強権を振るい、行政処分を連発して「金融処分庁」と恐れられたのは2000年代。小泉純一郎政権のもと、竹中平蔵金融相(当時)が2002年に作成し、大手行の不良債権比率を半減させると宣言した「金融再生プログラム(竹中プラン)」に基づき、容赦ない検査で銀行の不良債権を暴いた。
2004年には、旧UFJ銀行を銀行法違反(検査忌避)容疑で刑事告発し、元役員らが逮捕、起訴される事件に発展。旧UFJ銀行は旧東京三菱銀行との合併を余儀なくされるなど、検査は業界再編のツールでもあった。
検査局に逆らうとどうなるのか、をまざまざと見せつけられた金融業界は震え上がり、すっかり牙を抜かれて不良債権処理にまい進した。その結果、今では大手行の不良債権比率は極めて低い水準になり、健全性の面では十分合格点が付く。
だが、「副作用」も生じた。金融機関が金融庁の顔色をうかがい、忖度ばかりするようになったのだ。日銀が大規模な金融緩和でお金を供給しても、銀行は失敗を恐れてリスクを取ろうとせず、貸し出しの伸びは鈍いまま。将来、成長するかもしれないベンチャー企業などにお金は回らず、日本経済の低成長にもつながっている――金融庁にはそんな銀行への不満がある。
金融機関の「自立」への道のり
超低金利で資金運用難が続く中、銀行はビジネスモデルの見直しが急務だ。とりわけ、人口減少で将来の経営環境が厳しい地方銀行は改革が待ったなしだが、金融庁幹部は「指示待ちの姿勢で、自ら考えようとしない経営陣が多い」とぼやく。だが、銀行をそうした体質にしてしまったのは、箸の上げ下ろしまで指示した金融庁の側にも原因がある。
こうした状況を踏まえ、森長官は時代の変化に合わせた組織再編を決断した。検査局は廃止し、主な業務は監督局に統合。金融行政の司令塔となる「総合政策局」を新設するほか、総務企画局を「企画市場局」に衣替えして、ITと金融が融合した先進サービス「フィンテック」などへの対応を強化する。
金融庁の組織改革には、アベノミクスや「地方創生」を推進する安倍晋三政権の意向も強く働いている。金融庁はこれまでのように金融機関を「しかる」だけでなく、金融機関が企業収益の向上や地域活性化に向けて積極的に動くように育成せよ――というわけだ。
金融庁幹部は「今後は金融機関との対話を重視する」と、対立路線からの転換を強調する。ただ、金融庁がどのような対話で金融機関に自立を促すのか、具体策はまだ見えない。処分庁から育成庁へ転身を謳いはしても、金融庁が金融機関の尻を叩く基本的な構図は変わらないともいえる。金融機関の「自立」への道のりは、なお遠いようだ。