韓国の国防相が、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長らを狙う「斬首作戦」を遂行する部隊を2017年中に創設する、と韓国国会で明らかにした。北朝鮮が建国記念日を迎える直前のタイミングということもあり、その意図をめぐり様々な憶測が出ている。
一方、日本のツイッターでは、「本当にやる気なら秘密裏にやるだろう」と、その本気度へ疑問を呈する声も出ている。
韓国国会の委員会で公表
韓国の宋永部・国防部長官(国防相に相当)は9月4日、国会の国防委員会で、「斬首作戦」に関して、12月1日付で部隊を創設して戦力化させることができる、と述べた。韓国の聯合ニュースなどが9月4日から5日にかけて報じた。
聯合ニュース(4日配信、日本語ネット版)は、「金正恩氏『斬首作戦』部隊 12月1日に創設へ」の見出しで伝えた。また、中央日報(5日、同)は、見出しでは「北朝鮮指導部除去のための部隊」という表現を使ったが、本文中では「斬首部隊」の言葉を用いていた。
そもそも、斬首作戦とは何か。実ははっきりしない部分もあり、メディアによって、受け止め方に差があるようだ。多くの捉え方は、
「北朝鮮が核兵器を使う兆候が見られるなど韓半島(朝鮮半島)有事の際に平壌に秘密裏に侵入し、金正恩ら北朝鮮戦争指導部を除去することを意味する」(中央日報、5日記事)
「部隊は平壌に潜入、核兵器発射を命じる指導部を排除し、指揮施設をマヒさせる任務を負う」(産経新聞ネット版、6日記事)
といったものだ。
計画を2年前倒し
一方、「週刊朝日」記事の一部を紹介した「AERA dot.」(8月29日配信)の「金正恩『爆殺』狙う『斬首作戦』の全貌とは?」では、斬首作戦について、
「(略)だが、アルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディン暗殺時のように特殊部隊を派遣するわけではない」
と説明。さらに、「(金正恩氏が有事に身を潜めると言われている)地下施設をバンカーバスター(地中貫通弾)などで徹底的にたたくというのが、斬首作戦の要になるようです」との韓国在住ジャーナリストのコメントを紹介している。
「斬首作戦」の言葉は、昨16年3月の米韓合同軍事演習を機に、メディアなどで見かける機会が増えてきた。北朝鮮は例年、同演習を批判してきたが、16年の際には「斬首作戦」訓練が含まれているとして、「強く反発した」と複数のメディアに報じられている。
北朝鮮側は、強く意識している模様で、聯合ニュースは17年6月15日、韓国情報機関の国家情報院が国会委員会で、「金委員長が『斬首作戦』に関する情報を探ることに血眼になっている」との報告を行ったと報じていた。
「斬首作戦」を遂行する部隊は当初は19年に創設予定だったが、17年1月の段階で、韓国国防部が計画を2年前倒しし、17年中に立ち上げる方針を明らかにしていた。こうした文脈から、今回9月4日の「12月1日付で創設」公表は、既定路線上の話ではある。しかし、北朝鮮の新たな挑発などが懸念されている、建国記念日の9月9日の直前の発表とあり、その意図をめぐり、様々な憶測が寄せられている。
北朝鮮へは刺激さけ、韓国国内には「強硬姿勢」示す?
4日の公表内容が報じられると、国内ツイッターでは、
「公表するもんなの???」
「本当にやる気なら秘密裏に分からないように、やるだろう」
などと、韓国の「本気度」へ疑問を示す声が出た。
産経新聞の6日記事「金正恩氏ら首脳部暗殺『斬首作戦部隊』予定通り実戦配備(略)」では、部隊創設まで、あと3か月もあって急がない構えを見せているとして、
「過度な対北刺激を避けたいとの思いがうかがえる」
と分析。一方、フジテレビ系ニュース番組「ユアタイム」の一部をネット動画で配信したフジサイトのニュース(9月6日未明配信)では、元共同通信ソウル支局長の平井久志氏が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の北朝鮮への姿勢が甘いとの批判があるため、
「(韓国)国内に強硬姿勢を見せる」
狙いもあるとの見方を披露していた。
実際、今回の国防部長官の「斬首部隊」の言及内容も、緊迫度の高いものではなかった。聯合ニュースと中央日報報道によると、長官は、斬首部隊が、「来(18)年末ごろには斬首作戦能力を具体化できるか」という質問に、「できる(はい)」と答えており、「来年末」と先の話になっている。