プロレスラーの高山善廣選手(50)が、頸髄完全損傷という大けがを負った件で、先輩レスラーに当たる蝶野正洋さん(53)がテレビ番組でコメントした。
練習で鍛え抜かれた体をもつレスラーだが、過去には死亡事故につながった例もある。命の危険と隣り合わせのファイトだと肌で知る蝶野さんは、高山選手の事故をどう感じたのか。
選手は多少のけがでも無理して出る
蝶野さんは、自らが司会を務める「バラいろダンディ」(TOKYO MX)の2017年9月5日放送時に、高山選手の現状について真剣な表情で話した。過去に脳梗塞を発症後に復帰した点に触れて「不屈の闘志を持っている人ですから、ぜひがんばってもらいたい」と励ます一方、プロレス業界全体での事故防止を問われてこう答えた。
「使う側、団体側がそういう(事故防止の)ルールをつくるしかないと思います。選手は多少のけがを負ってでも、無理をしてでも自分をアピールしようと思って出る。これはどの業界でも変わらないと思う。使う側がそこをちゃんと見極めて、規制をつくらないと止めようがない」
大手プロレス団体でも、チャンピオンになれるのはほんの一握りのレスラーだ。競争は激しく、油断をすればポジションが奪われる。またフリー選手や小規模団体の所属選手は「食べていく」ためにやはり多少の無理を覚悟しなければならない。選手側だけでは決められない事情がある点を、蝶野選手はよく分かっているようだ。
最大手団体の新日本プロレスでは、2017年だけでも本間朋晃選手(40)が頸髄損傷、柴田勝頼選手(37)が硬膜下血腫で緊急入院、手術する事態となった。いずれも試合中の事故が原因だ。団体側はもちろん、選手の健康管理に注意を払っている。2017年6月6日付の日刊スポーツ電子版記事によると、所属選手は6年前からMRI(核磁気共鳴画像法)やCT(コンピューター断層撮影法)を含めた健康診断を国際医療福祉大や三田病院などで年1回実施し、そのデータを蓄積しているとのことだ。試合前はトレーナーにマッサージを受けるなど入念な準備をしているという。
「昔よりも技が激しくなっている」の指摘に
「バラいろダンディ」では、タレントの内山信二さん(35)が蝶野さんに、「昔よりも(プロレスの)技が激しくなってますよね」と問いかけた。対戦相手から勝利を得るために、大技が高度かつ危険になっているとの指摘は、ある。受け身がとりにくく、頭部に直接大きな衝撃が走る落下技は、見ていてヒヤっとする場合もある。
内山さんに対して蝶野さんは、高山選手のキャリアが25年以上である点に触れて、「そこらへんの(年数の)選手になると古傷があります」と答えた。1試合だけの影響ではなく、長年の「勤続疲労」で悪化を続けていた患部が、何かの拍子で「暴発」する可能性もあるというわけだ。高山選手が首を負傷したのも相手の大技を受けたからではなく、マットの上で相手ともどもくるりと1回転して抑え込む「前方回転エビ固め」をねらった際だった。脳梗塞から復帰後もファイトを続けてきた高山選手だが、キャリアを重ねると共に体のダメージがたまっていたのかもしれない。
そのうえで蝶野さんは、こう発言した。
「(レスラー)本人たちも怖いんですよ、リングに上がる時は。ただリングに上がったら、そういった制御がなくなっちゃうところがある。今回はリングで起きた事故なんですけど、業界全体、プロモートする側、使う側がルールをかけないと止まらないと思います」
先述の日刊スポーツの記事によると、新日本プロレスの三沢威メディカルトレーナーは、試合数を限定して選手のシリーズ参戦を考える意向を表明し、木谷高明オーナーも「選手の健康管理をすべて見直していきたい」と話したという。どこかでブレーキ役が必要な時期にきているのかもしれない。