2017年8月30日、米食品医薬品局(FDA)は製薬メーカーのノバルティスが開発した「B細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)」の治療薬「Kymriah(キムリア)」を承認したと発表した。
キムリアは遺伝子組換え技術を利用した画期的な治療法、「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法」に用いられる治療薬で、完治が難しいとされてきたがんの腫瘍を完全に消失させる可能性を持つ。
同日付の米CNNなどは「致命的ながんも克服することができるかもしれない、医療革命のフロンティアに突入した」とするFDAのコメントを取り上げており、CAR-T療法に寄せられている期待は大きいようだ。
遺伝子組換えで免疫を強化
CAR-T療法の何がそれほど画期的なのかを理解するには、その仕組みを知る必要があるだろう。
一般的に病気になった際は治療薬を服用し、薬の力で病気の原因を攻撃・排除することで治療する。一方、CAR-T療法では自分自身の免疫機能を強化し、がんの原因となっている腫瘍を排除するのだ。
これだけではがん治療でよく名前を耳にする「免疫療法」と変わらないように思えるかもしれないが、ポイントとなるのは「キメラ抗原受容体(CAR)」という、がん細胞を狙い撃ちできる物質を遺伝子組換えによって組み込む点だ。
通常の免疫療法では、がん細胞が免疫機能を作用させなくするたんぱく質を放出したり、そもそもがん細胞に対しピンポイントで作用しない場合があったが、CARを組み込むことでその問題が解消される。
キムリアの場合、まず白血病の患者から血液を採取。その血中に含まれる「T細胞」というリンパ球に遺伝子組換え操作を行い、CARを組み込む。こうして作成した遺伝子組換えT細胞を再び患者の体内に戻すのだ。
この組換えT細胞は通常のT細胞よりも強固になっており、免疫機能による攻撃を回避しようとするがん細胞を正確に攻撃でき、臨床試験ではALL患者の腫瘍が完全に消失した例も確認されている。まさに夢の治療法と言えるだろう。
白血病は血液がんのひとつであり、ALLで高い効果が確認できればその他のがん治療にも応用できる可能性もある。FDAが大きな期待を寄せるのもうなずける。