半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却先選定を進める東芝は、2017年8月31日に開いた取締役会を受け、「引き続き3陣営(ウエスタン・デジタル=WD=陣営、日米韓連合、鴻海精密工業)と交渉を続ける」と発表した。
事前報道では「WDと大筋合意した」「WDに対し独占交渉権を付与する」などと、WDへの売却決定を強くにおわせる記事が飛び交い、ようやく決着するとの安堵感も関係者に広がっていたが、ふたを開ければ拍子抜けする内容にとどまった。
これまでも二転三転
表向き、31日の決定を見送った理由は「ベインキャピタルが日米韓連合としての新提案を出してきたから」とされている。今にもWDへの売却を決定しようというタイミングで図ったように出てきた新提案で、「善管注意義務が生じるため、東芝が内容を検討せざるを得ない」(東芝関係者)のは事実だ。だが、31日に決められなかった本当の理由は、WDとの交渉が膠着しているからにほかならない。
関係者によると、当日の取締役会は荒れたようだ。「経営陣の煮え切らない態度に、一部の社外取締役が『もう時間がない。いい加減にしてくれ』と詰め寄った」との証言もある。実際、取締役会の数日前まで、東芝がWDと合意寸前だったのは間違いないようだが、「WDが将来の経営権をめぐる重要な部分で態度を硬化させ、結果的に当初期待していたほど妥協してくれなかった」という。東芝側がWDとの交渉を甘く見て、取引銀行や経済産業省など各方面に報告したことが、甘い見通しの記事につながったようだ。
東芝の半導体売却に関しては、これまでも二転三転しており、経営陣のリーダーシップの欠如が指摘され続けてきた。6月21日に日米韓連合と優先的に交渉する方針を決め、6月28日までに合意する方針を掲げたものの、交渉は行き詰まり2か月を空費。その間、WDとの対立は深まり、事態は深刻化した。今回も、いったんは楽観的な見方が広がっていた分、取引銀行や経済産業省など関係者の失望も大きい。
「デッドライン」は過ぎたが...
とはいえ、依然としてWDが売却先として有力であり、契約に近づいている事実に変わりはないようだ。日米韓連合がどんなに良い案を提示したとしても、WDとは既に協業関係にあり、東芝メモリは売却された後も引き続きWDとうまくやっていくしかない。まずはWDと和解して訴訟を早急に終わらせなければならない。結局、売却先はWDしかない、という現実に立ち戻る。
計画通り2018年3月までに売却を完了するには、売却先決定は「8月がデッドライン」と言われていたが、既に経過した。もはや条件闘争を悠長に続けている時間はない。関係者は「新提案が出てきたことで、焦ったWDがおりてくる可能性もある」と期待するが、果たしてどうか。9月中の早期に東芝経営陣が売却先を決定できるか、関係者は固唾を飲んで見守っている。