現在、中国と米国の間には一つの大きな問題がある。それは世界が注目する大きな問題でもあって、米国のトランプ大統領が中国に「通商法301条調査」を行うと脅していることである。トランプ大統領は、「米国の知的所有権と技術を保護するため」と言っている。
トランプ大統領が言うのは、中国がニセモノの劣悪品をつくったり、米国企業の商標を侵害したりということではなく、在中外資系企業が長いこと不満に思っていた「強制技術移転」についてである。「中国政府は長年、中国で経営を行う多国籍企業が先進技術を中国側の協力者に移転するよう強制する一連の政策をとっている」と言うのだ。
不満を口にしない在中外資系企業
かつて日本が技術導入の場合、「1号機は導入、2号機から国産」という政策を取った。発電や鉄鋼などの大型プロジェクトの場合、そのような政策を取ること自体は、とくに珍しいことではない。しかし、中国の場合、「2号機からの国産」は、米国など国から見れば「強制技術移転」のように映る。日本の技術水準は少々立ち遅れたと言っても、かつての第2次世界大戦では列強と激戦を繰り広げた技術的な大国であり、その日本の「2号機からの国産」は理解できるが、中国について見れば、迅速に欧米日の生産技術レベルまで追いつくことはできないはずと思われているからだ。
一方、「強制技術移転」について、中国メディアは長年、関連の報道は行ってこなかった。そのため、中国の人々はトランプ大統領の提起した問題およびその深刻性についてほとんど無知であり、トランプ大統領がこれを理由に怒り出したとき、普通の中国人は、「そんなに深刻なことなのか?」と不可解であったことだろう。
一方、多くの在中外資系企業はメディアの取材を受けても、その不満を公にしようとはしないことがある。また、多くの先進技術は専門性がとても強いため、一般人にはその是非や善悪を理解するのが難しい。そのため、欧米メディアにおいても、深く印象づけるような報道は多くなく、それゆえに在中外資系企業の幹部でも、この問題について明確で全面的な意識を持っている人は少ない。
低コストのライバル企業を作り出す構造
数少ない報道の中では筆者は、英『フィナンシャル・タイムズ』が報じた7年前の長篇記事を注目している。2010年10月8日と9日、同紙の中国語版サイトで2回にわたって連載された「中国はいかにして高速鉄道技術を『消化』したか」と題する記事だ。ある外国の鉄道グループが高速鉄道技術を中国に移転せざるを得なくなり、数年間で自ら低コストのライバルをつくり出してしまったというストーリーだった。
このストーリーの語り口は通俗的で明快であるが、その客観性については、読者の判断に任せることにする。問題提起の面では今現在でも中国では関連問題を議論する際、引用されており、関連の記事を検索する場合、すぐ出てくるぐらいだ。
同紙は曰く、多くの多国籍企業の幹部からすると、彼らの企業は長年ずっと政府を後ろ盾にした中国の協力パートナーに技術の「移転」あるいは「販売」をし、それと引き換えに市場参入してきたが、中国の国家政策は現地の産業に手厚いため、外資系企業の中国シェアは日々縮小してゆくというものであった。
わずか数年のうちに、中国国内の高速鉄道産業は雨後のタケノコのようにぐんぐん成長した。高速鉄道業界発展の推進力は国内鉄道網の拡張である。中国は現在、世界で最大の高速鉄道ネットワークを持ち、さらに2020年までに4万キロまで(日本は3000キロ未満と中国では報道している)拡大する計画だ。政府はすでに数年間で、毎年1000億ドル以上の予算を組み、新たな鉄道路線の建築および古い鉄道ネットワークのアップグレードを行う予定である。世界銀行の予測では、この数字は世界の鉄道投資額の半分以上を占めることになる。
この魅力的な市場は、世界の大きな鉄道グループを引き付けた。10年以上もの間、北京側はドイツのシーメンス、フランスのアルストム、日本の川崎重工、カナダのボンバルディアなどのグループと、中国の国有企業が協力パートナーシップを結ぶことを歓迎してきた。激烈な競争のもと、技術移転は中国が示す条件の一つとなったと『フィナンシャル・タイムズ』は書く。
強調される「全く新しい自主設計」
高速鉄道の技術を導入した後、中国は迅速に消化・吸収していった。ただし、導入先の企業について鉄道部などが多く語らなかったことを『フィナンシャル・タイムズ』は重く見ている。
たとえば、2007年に本土で組み立て製造された高速鉄道列車の発売を祝った際に、鉄道部は、それらの列車が川崎重工が提供した日本の技術プラットフォームを基礎にして製造されたものであることは語らず、外国技術の消化の上で得た国家の業績だけを強調した。鉄道部は「国有企業が標準的コストより明らかに低い価格で、高速鉄道技術を吸収することに成功した」と声高に公言した。
「川崎重工からこの列車の時速200キロの原始的技術を購入した後、川崎重工と協力したことはない」と、かつて南車四方技術センターで技術担当副社長にあたる副総エンジニアだった羅斌氏は語る。
「これはわれわれが消化・吸収した技術を基礎とする全く新しい設計だ」とも羅斌氏は胸をはって言う。「完全にわれわれの自主設計の成果であり、ボンバルディアやシーメンスとも無関係で、新幹線とはさらに関係はない」とも。
鉄道部で技術全般を担当する総エンジニアの何華武氏も、「中国は世界の高速鉄道という人類文明の成果を応用し、同時にこのレベルにおいて大幅に改良とイノベーションを進めている」と語った。
「1号機は導入、2号機から国産」という言葉は中国にはないが、高速鉄道にかぎって言えば、導入してきた技術を中国では消化・吸収ができたことは間違いない。巨大で統一した国内市場もあり、消化された技術は非常に速く国内で普及していく。これほど速く国内市場を作っていき、さらに海外にも出ていくことにはおそらく外国企業は想像できなかった。今になってはじめて、トランプ大統領は「強制技術移転」を挙げて大声で中国を批判し、301条調査を発動させようとした。
(在北京ジャーナリスト 陳言)