【クローズアップ現代+】(NHK)2017年8月30日放送
「命を奪うマダニ感染症 ペットも野生動物も危険!?」
マダニによる感染症「SFTS」(重症熱性血小板減少症候群)の被害が拡大している。SFTSウイルスによる発熱や全身の倦怠感が起き、重症化して死に至ることもある恐ろしい病気だ。
従来は野山に生息してイノシシやシカなど野生動物の血を吸っていたマダニだが、最近は人間の生活圏にまで侵入してきているようだ。そのカギとなるのが、ペットのイヌやネコだという
野良猫に噛まれた後にSFTSを発症
鳥取県で動物病院を開業する小西みさほさんが、番組に貴重な情報を寄せた。診察したペットのネコから、マダニが見つかるケースが近年増えてきたというのだ。番組で全国の獣医師に情報提供を呼び掛けたところ、各地からネコにマダニがついていたという報告が寄せられた。国立環境研究所の五箇公一氏は、マダニが相当身近なところまできているとみる。
厚生労働省によると2016年、西日本の50代女性がSFTSで死亡した。弱った野良猫を保護した際に噛まれて傷を負い、その後SFTSを発症した。野良猫にはSFTSとよく似た症状が出ており、ネコからヒトにSFTSが感染した疑いがあるという。
山口大学の前田健教授は、別のネコを詳しく調べた。動物病院に運び込まれたペットのネコで発熱、下痢、おう吐の症状があり、人間のSFTSのように白血球や血小板の減少が認められたという。前田教授は、SFTSに感染したネコの血液や糞から人間にうつる可能性があるため、道端で弱っているネコを見つけても絶対に触らず、保健所や近くの獣医師に連絡するようにと話した。
五箇氏は、ペットにマダニが付かないようにするためにその体調に十分注意を払い、マダニ駆除の薬を活用したりするよう勧めた。
都会で増加中のアライグマにマダニが付着
ではマダニはどこでペットに付着するのか。本来なら野山にいるはずのマダニが、都市部にまで生息域を広げている疑いがある。広島市内で、市民が利用する公園やグラウンドの隣の緑地を調べると、マダニが何匹も見つかった。そこには、野生動物の痕跡があった。
和歌山県・ふるさと自然公園センターの鈴木和男さんは、アライグマの調査を続けている。近年、住宅地に姿を現すようになった動物の一種だ。しかもそのほとんどに、マダニが付いている。最近では、調査したアライグマの半数にSFTSの感染が広がってきたという。この傾向は、人間の感染者が増えてきた時期と重なっている。
五箇氏は、アライグマやハクビシンといった外来の動物が都市部で増えており、捕獲事例もあると指摘。同時にマダニも一緒に都市部に到達しているリスクを憂慮した。こうなると、都会の住民もマダニから身を守る方法を知っておく必要があるだろう。
数年前までマダニ被害が全国ワースト1位だった愛媛県。みかん農家の玉井真吾さんは、農作業の際に真夏でも長袖、長ズボン姿で裾は靴の中に入れている。肌の露出を防ぐのがマダニ対策の基本だ。またマダニに噛まれても気づかないことが多いので、入浴の際には全身をチェックするという。
愛媛県では、保健所が市民にマダニに関する講習会を開いている。さらに農家には農協が、高齢者にはケアマネジャーが、マダニの必要知識と防ぎ方を伝えている。その結果、被害は激減した。噛まれても、すぐ病院を訪れて適切な処置を施してもらう人が増えた。
仮に自分の体やペットにマダニが付着していても、つぶしてはいけない。マダニの体液が体内に入って、ウイルスに感染しかねない。野良猫や、飼い猫でも誰が飼い主かがはっきりしていないネコは、寄ってきても触ったりなでたりしない。いわばネコも被害者なのだが、SFTS感染の恐れはぬぐいきれないからだ。
草むらのような場所に行く場合は、マダニに効果がある虫よけスプレーを使い、極力肌の露出を控えよう。