保育所が抱える課題は「待機児童」の問題だけではない。多くの入所希望者のうち誰をどこの保育所に入れるか、複雑な条件を考慮するため保育所の割り当て作業には人手と時間がかかる。このため、保護者への結果通知が遅れ、職場復帰に悪影響を与えている。
富士通と九州大学の合同研究チームが2017年8月30日、AI(人工知能)を使って、わずか数秒で最適な保育所の割り当て作業を行なうシステムを開発したと発表した。
保育所の入所を待つ親の職場復帰もスムーズに
富士通などの発表資料によると、保育所入所の選考では、自治体ごとに決めている申請者の優先順位に基づき、様々な条件をかなうよう配慮される。たとえば、「兄弟姉妹を同じ保育所に入れてほしい」「家の近くに入所したい」「入所するタイミングは、仕事復帰する○年○月頃に」などだ。一方、受け入れる保育所側にも人数や年齢などの条件がある。こうした申請者の希望ができる限りかなうよう、自治体の職員は最適な割り当てを行なっているが、時間と人手がかかるのがネックだった。
たとえば、さいたま市の場合(2016年度)、7959人の児童に対し、こうした複雑な条件を考慮しながら市内の311保育所に割り当てるために、20~30人の職員が約2~3週間かけて作業した。約8000人の児童が行きたい保育所の希望を、第1から第5希望まで出すと、その組み合わせだけで「5の8000乗」という天文学的な数字になるからだ。
そこで、富士通と九州大学は、煩雑な最適保育所割り当てを数秒で算出するAIのマッチング技術を開発した。技術は「MICJET MISALIO(ミックジェット・ミサリオ)子ども・子育て支援」と名づけられた。このシステムを使って、さいたま市の2016年度の児童に対し、さいたま市の入所条件をインプットして実証実験を行なったところ、5秒で作業を終えた。
さいたま市の担当者は、発表資料の中でこう絶賛している。
「現在、2018年4月の入所希望者の1次選考を行なっていますが、このAI技術を導入すれば、職員の劇的な負担軽減が実現されます。また、早く結果を保護者に通知することができ、職場復帰計画がスムーズに進むことができます。この技術の本格的な導入を心待ちにしています」