誰かが訪ねてくる予定がないのに自宅のインターホンが鳴る、電話がかかってきたが見覚えのない電話番号が表示される。物騒な事件や「振り込め詐欺」が多発する昨今、こうした場面に遭遇すると「応対しても、いいことなさそう」とつい無視してしまわないか。
知らない相手が出るかもしれないインターホンや電話は近年、不人気になっているばかりか「恐怖症」の人までいるようだ。
定着する「無言のコミュニケーション」
若者は「インターホン恐怖症」――。米ウォールストリートジャーナル日本語電子版は2017年8月28日付で、こう題した記事を配信した。米国の若者のなかでインターホンを使ったり、玄関のドアをノックしたりするのが苦手、さらには「恐ろしい」と感じる人が出てきているという内容だ。
記事では「インターホン恐怖症は、直接ではなくスマートフォンなどのIT機器を介したコミュニケーションが優勢となっている時代を反映している」と書かれている。友人同士はスマホのテキストメッセージでのやり取りが浸透しており、相手の家に到着した際もテキストで知らせればよい。それに対して、勇気を出して玄関の呼び鈴を鳴らし、友人の家族が出てきて怪訝な顔をされたら困る、まして異性の友人だったら歓迎されないかもしれない、と心配してしまうのだろうか。インターホン恐怖症に関する調査論文は発表されていないが、実際にあると記事では説明している。
以前に比べて「無言のコミュニケーション」が定着してきた。日本でも、無料通信アプリを使えば本人同士が確実に連絡を取り合える。買い物や飲み会の予約、タクシーの配車も今ではアプリ経由で可能だ。直接訪問を受ける場合、例えば宅配便なら、物によっては「宅配ボックス」に入れてもらえるので配達員と直接会話を交わさずに終わる。
おかげで電話をかけてしゃべる機会は、固定電話しかなかった時代に比べれば随分少なくなっただろう。ただしビジネスの世界では、まだまだ通話によるコミュニケーションは健在だ。
電話に慣れるどころかどんどん苦痛になる症状
半面、電話応対に慣れない若者や「電話恐怖症」の人が増えていると指摘したのは、2017年7月24日付の日本経済新聞夕刊記事だ。「電話応対技能検定(もしもし検定)」を主催する日本電信電話ユーザ協会の吉川理恵子技能検定部長が、こう指摘している。
「若い人は固定電話にかかってきた電話で知らない人と話すことに慣れていない。いざ社会人になって電話で話すことに恐怖を感じてしまう」
だがビジネスの場面では、文字だけでのコミュニケーションですべてを済ませられない。今でも電話での会話は、意思疎通を確実にするうえで重要だ。
社会人としては、慣れを求められる電話応対だが、極度に通話を恐怖だと感じるようなら病気の可能性がある。それが「社会不安障害」だ。複数の専門クリニックのウェブサイトに説明がある。初対面の人を目の前にしたり、大勢の前でスピーチしたりする際に緊張するのは誰にでも起こり得るが、その不安があまりにも強く、さまざまな症状が現れたうえ、社会生活にも影響を及ぼすのなら問題だ。
市ケ谷ひもろぎクリニック(東京)のサイトでは、社会不安障害を疑われるひとつとして「電話に出るのが怖い」を挙げている。「電話だと、口がもつれたり、声が震えてしまう。だんだん電話が鳴るだけで動悸がして手が震えるようになった」というケースだ。電話に慣れるどころか、どんどん苦痛になる。自分を責めたり抱え込んだりせず、適切な治療を受けて欲しい。実際に治って、社会で活躍する人も多いという。