青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)は、コレステロール値を下げたり、動脈硬化を防いだりと、健康にいいことが知られているが、てんかんの発作を抑える効果が期待できることが、広島大学とカリフォルニア大学の合同研究で明らかになった。
研究成果は、科学誌「Scientific Reports」(電子版)の2017年7月24日号に発表された。研究者は「食生活に魚を多くとりいれることが、てんかん予防につながる可能性もある」としている。
「頭がよくなる」油と女性ホルモンの意外な関係
広島大学の発表資料によると、DHAは青魚に多く含まれるオメガ3不飽和脂肪酸の1つだ。血管系の病気を抑える効果としては、コレステロールや中性脂肪の低下、高血圧の抑制に効果があるとされる。一方、脳に関係する効果では、記憶力の向上や抗うつ作用があるという報告もある。「頭がよくなる」などとして魚を食べることの重要性とともにテレビ、雑誌に取り上げられることが多い油だが、DHAの脳への作用メカニズムには不明な点が多かった。
研究チームの石原康宏助教らは、これまでの研究で、マウスにDHAを混ぜたエサを食べさせると、脳内で女性ホルモンのエストラジオールが増加することを明らかにしてきた。エストラジオールは、第2次性徴や排卵制御に関わるホルモンだが、最近、脳内でも合成されることがわかった。しかも、まだ研究段階だが、記憶・学習力の向上や神経保護に関わることが報告されている。
そこで、研究チームは、(1)通常のエサ(オメガ3脂肪酸を少し含む)、(2)オメガ3脂肪酸が全くない欠乏食、(3)(2)の欠乏食にDHAを添加したエサ、の3種類をマウスに1か月間食べさせ、マウスに与える影響を調べた。すると、(1)では脳内のエストラジオールの量はそのままだが、(2)では逆に減少した。一方、(3)のDHAを添加したエサでは大きく増加した。つまり、DHAを食べると、エストラジオールの合成が促進されるのだ。
魚を多くとる食事療法と新薬開発に期待
次に、マウスにてんかん発作(けいれん)を引き起こす薬物を投与すると、興味深いことに、DHAを添加したエサを食べたマウスでは、けいれんまでの時間が遅くなった。また、脳内のエストラジオール合成を薬物で阻害すると、けいれんは悪化した。これらの結果から、DHAの摂取が脳内のエストラジオール合成を活性化させ、そのエストラジオールがてんかん発作を予防していると考えられるという。
石原助教らは発表資料の中で、こうコメントしている。
「この研究は、DHAの新しい脳内作用メカニズムを明らかにし、食事でてんかん発作を予防する方法(食事療法)の開発につながることが期待されます。また、エストラジオールには、脳内で記憶・学習力を向上し、脳神経を保護する作用がすでに報告されています。DHAとエストラジオールが協同して発作を抑えるメカニズを解明すれば、新しい薬剤の開発の糸口となります」