【美と若さの新常識】(NHKBSプレミアム)2017年8月24日放送
呼吸ビューティーへの道は『肺活』から
「呼吸がカラダに大事」とよくいうが、本当のところはどうして健康効果があるのか。番組では究極の呼吸の達人、素潜り世界チャンピオンの日本人女性のカラダを通して、呼吸がいかに健康に大切かを追求した。
そして、超簡単な呼吸エクササイズの方法や、呼吸パワーを活用してやせるピラティスの魅力も紹介する。
1分間にゆっくり15回以下がよい呼吸法
アナタは、自分の「呼吸力」を調べたことはあるだろうか。番組では冒頭、ゲストたちの鼻の頭にティッシュペーパーをつけ、1分間の呼吸を数えた。ゆっくりと呼吸し、回数が少ない人ほど深い呼吸をしている。つまり、深い呼吸のほうがよい呼吸なのだ。落ち着いて不安度が低い人は、非常にゆっくりとした呼吸をする。1分間に15回以下がよい呼吸だ。一度試してはいかが。
次にフリーダイバーの木下紗佑里さん(28歳)の驚異的な「呼吸力」を測った。2016年にバハマで行われたフリーダイビング(素潜り)の世界大会で72メートルの世界新記録を出した女性だ。わずか1回の呼吸で、長時間潜っていられる木下さんのカラダを調べる実験を行なった。木下さんには、芸人ちあきさんと番組の白石ディレクター(中年男性)が挑み、プールに顔をつけた状態で浮かび、どれだけ息を止めていられるか測った。タート。結果は、1分8秒でディレクターがダウン。ちあきさんも2分10秒まで頑張った。木下さんの記録はなんと4分33秒! これでも調子が非常に悪く、普段は7分いけるという。
スゴイのはこれからだ。実験中、血液中に含まれる酸素の量(血中酸素飽和度)を測定した。血液中に含まれる酸素量は、90%を切ると息苦しさを感じるレベルになる。3人の数値は、1分台でギブアップしたディレクターは89%。2分台のちあきさんは77%。4分以上の木下さんはなんと52%に減っていた。これには、潜水生理学が専門の東京海洋大学の藤本浩一准教授さんも驚いた。
藤本准教授「普通の人なら死んでしまう数値です。一般の人より横隔膜の伸び縮みがすごくあるのでしょう。肺の下部の上下の動きが大きいので、肺活量が高く、たっぷり酸素を血液に吸収できるのです」
実際に木下さんの肺活量を測ると、約4.6リットル。同年代の女性の約1.6倍だ。木下さんが普段行っている呼吸のトレーニングを公開した。
1つ目は、肺に空気を詰め込む呼吸法「パッキング」。肺を大きくすることで、横隔膜を下に押し下げるストレッチになる。まず、あおむけに寝転がり、思いきり息を吸い込む。さらに、口の中にゴルフボールほどの空気をため、それを少しずつ飲み込むようにして肺に送り込む。
2つ目は、息を吐いて横隔膜を上げるトレーニングだ。横隔膜がすっかり上がると、腹部がペチャンコになっている! これにはスタジオ中が「ええっ~!」とどよめいた。木下さんのように肺を鍛えた人がどれほど健康的なカラダなのか。血液検査や超音波などを使い、健康診断の40項目すべてを調べた。その結果、全項目がど真ん中の優良数値という、パーフェクトボディーの持ち主だと分かった。呼吸を鍛えることが、全身の健康に大きな影響を与えているわけだ。
横隔膜と背中の呼吸筋を鍛えるストレッチ
ただし、木下さんの呼吸法トレーニングは、プロのフリーダイバーだからこそできるワザ。一般の人には危険だという。そこで番組では、一般の人にもストレッチと呼吸法紹介した。呼吸の健康効果を長年研究している東京有明医療大学の本間生夫学長が考案したもので、方法はこうだ。
【呼吸に使う筋肉を柔らかくする「両手を上げる呼吸筋ストレッチ」】
(1)まず、頭の後ろで両手を組み、鼻から息をゆっくり吸う。
(2)口から息を吐き続けながら、腕を上に伸ばし、背伸びする。この時、組んだ両方の手のひらは下に向ける。横隔膜を引き上げる両脇の筋肉と腹筋を意識する。
(3)力を抜いて最初の姿勢に戻し、ひと呼吸。
【息を吸う筋肉=脊柱起立筋を伸ばす「背中を丸めながら伸ばす」ストレッチ】
(1)両方の手の平を胸の上部で重ね、鼻から息を吸って口から吐く。
(2)鼻から息を吸いながら、腕を前に伸ばし、背中を丸めていく。肩甲骨が開くのを意識する。
(3)息を吸えるところまで吸い続ける。手は大きなボールを抱えるイメージ。
(4)息を吐きながら、最初の姿勢に戻る。
呼吸法を使ったエクササイズといえば、ヨガと並んで女性に人気のあるピラティスが効果的だ。マドンナ、ジュリア・ロバーツ、キャメロン・ディアス...。歳をとっても美しいスタイルを保ち続ける彼女たちは全員、ピラティスの経験者だ。ピラティスは、深くてゆっくりとした呼吸をストレッチなどの動きと連動させて行なう。ピラティス指導者のArisaさんがこう説明した。
ピラティスは特に落ちにくい背中と脇腹に脂肪が減る
Arisaさん「ピラティスは、外側の筋肉というよりも、カラダの内側の筋肉に目を向けていきます。深層部についているインナーマッスルと呼ばれる筋肉にアプローチしやすいのがピラティスのエクササイズになります」
ピラティスでエクササイズするのは、呼吸で使われる筋肉、インナーマッスルなのだ。たとえば、普通の筋トレでは腹筋は激しく体を起こす運動を繰り返すが、ピラティスではゆるゆると呼吸しながら、少しずつ体を起こす。こうすることで、単なる腹筋運動では鍛えにくい、おなか周りのインナーマッスル、腹直筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋などを鍛える。さらに、うつぶせの姿勢からゆっくり背中を反り起こすポーズでは、背柱起立筋など背骨周りの呼吸筋が鍛えやすくなる。
ピラティスと一般的な筋肉トレーニングとのダイエット効果の違いに注目した研究者が慶応義塾大学スポーツ医学総合センターの松本秀男教授だ。松本教授は、20人の被験者を10人ずつに分け、一方には通常の筋肉トレーニング、もう一方にはピラティスを1日1時間、6週間続けてもらう実験を行なった。その結果、皮下脂肪の減少率を見てみると、脂肪の面積が10%以上減った人は、ピラティスのほうが筋肉トレーニングより2倍以上多かった。しかも、MRI画像で皮下脂肪が減った場所を見ると、ピラティスでは、特に落ちにくいとされる背中から脇にかけての脂肪部分が大きく減少した。
松本教授「実験では、ピラティスを行った人全員の皮下脂肪が減りました。筋肉量が上がるのと同時に、皮下脂肪量が減っているといえます。筋肉量が上がれば基礎代謝が高くなります。極端にいうと、寝ているだけでも代謝のいい人はやせていきます。胸を取り巻いている筋肉、おなかの回り、背中、首にも筋肉はあり、これらは全て呼吸の筋肉です。普段はその一部しか使っていません。ピラティスでは、それらの筋肉を鍛えて、使うようにしているのでやせる効果を上げているのです」
呼吸を意識して運動することで、健康効果を大きく上げているのだ。