AKB48グループのメンバーがプロレスラーに扮し、実際に観客を入れて激しいファイトを繰り広げた。人気アイドルたちがドラマで演じたキャラクターそのままに、本当に試合をしたのだ。
ドラマでも、メンバーたちは「本家」顔負けの華麗な技を披露した。女性タレントがここまで訓練したのかと驚かされるが、仮に素人が「自分にもできそう」と安易にまねをしたら大事につながりかねない。
本職レスラーを指導役に何時間もハードな練習
松井珠理奈さん、宮脇咲良さんをはじめAKBグループのメンバーがレスラー役で出演したドラマ「豆腐プロレス」(テレビ朝日系、放送終了)。ドラマの世界を飛び出し、本当にプロレスをするイベントが2017年8月29日、東京・後楽園ホールで行われた。
イベントを報じた各メディアによると、メンバーたちのプロレス技はかなり高度だ。リングのコーナーポスト最上段に上ってダイブ、場外に向かっての飛び技、リング上でもアクロバティックな技がいくつも繰り出されたようだ。相手からパンチや蹴りを受けたり、体や頭がリングに叩きつけられたりすれば、相当なダメージだろう。
「豆腐プロレス」公式ウェブサイトに公開されている動画を見ると、メンバーが各種プロレス技を習得するためにハードな練習を積んでいたことが分かる。本職のプロレスラーが指導役となり、最初は柔らかいマットを敷いて相手を投げたり、リング上で対戦相手を担ぎ上げたりといった具合だ。最初は持ち上がらず、何度もトライして体得していく様子が映されていた。練習が数時間に及ぶこともあったようだ。
苦労が実って完成するプロレス技は格好いい。見ている側は思わずまねしたくなるかもしれないが、これが危険だ。イベントの記事が掲載されたヤフーのコメント欄には、AKBメンバーの健闘ぶりを称えつつ、安易にまねをする人が出てこないかを心配する書き込みが複数あった。
素人がプロレス技を使って重大事故につながる――。こうした悲劇は昔からあった。毎日新聞「昭和の毎日」のサイトには、1955年3月2日付の記事としてこう紹介している。今から62年も前だ。
「横浜市内の中学校で、始業前に2年男子生徒(13歳)が同級生と校庭で顔や胸を殴り合って負傷。1週間後に脳内出血で死亡した。小中学生の間でプロレス遊びが流行し、この中学でもプロレスをまねて殴り合う遊びがはやっていた」
米プロレス団体はCMで注意喚起
プロレスラーが繰り出す大技を、「素人にはとてもできない」と理解したうえで観戦しているなら問題ない。だが、例えば幼い子どものように考えがそこまで至らないと、つい格好よさに魅力を感じてまねをしてしまいがちだ。未熟な「プロレスごっこ」が、取り返しのつかないけがにつながる恐れがある。
毎日厳しいトレーニングを積んでいる本職のプロレスラーですら、深刻な事故が起きている。2017年だけでも、新日本プロレスの試合中に本間朋晃選手が中心性頸髄損傷、柴田勝頼選手は硬膜下血腫で手術となった。幸い2人とも快方に向かっているが、一時は容体が心配された。細心の注意を払っているはずのレスラーでも、危険と隣り合わせだ。まして何の練習もしておらず、形だけをまねるのは危なすぎる。
米プロレス団体WWEは、試合をテレビ中継する際にコマーシャルで視聴者にレスラーの大技をまねしないよう警鐘を鳴らしている。「DON'T TRY THIS AT HOME, SCHOOL OR ANYWHERE」(家でも学校でも、どんな場所でも決してやらないで)とのキャッチフレーズで、何年にもわたって注意喚起を続けている。「厳しい練習に耐えたWWEのスーパースターでも、無敵ではない。本当のリスクを負い、信じられないほどの痛みに耐えている。骨折に筋肉断裂、脱臼――」。画面には、筋骨隆々のレスラーが痛みにもだえ苦しむ姿が映し出される。これを見て、事故につながるような振る舞いに自らブレーキをかけてくれというわけだ。