北朝鮮が発射した1発の弾道ミサイルが日本上空を通過して北海道襟裳岬の東約1180キロの太平洋上に落下したことを受けて、金融市場が混乱している。
2017年8月29日の東京外国為替市場は、早朝から円が米ドルやユーロ、英ポンドなどの主要通貨に対して上昇。11時のドル円相場は、前日終値(17時)と比べて67銭安の1ドル=108円67銭で推移。一時は4月18日以来、4か月半ぶりの円高・ドル安水準となる108円34銭を付ける場面があった。
「地政学リスク」懸念の円買い?
「地政学リスク」への懸念で、リスク回避の円買いが続いている。米韓合同軍事演習が8月21日に始まったことで、「火に油を注ぐもの」と強く反発していた北朝鮮との緊張が一気に高まったことで、29日の東京外国為替市場で円相場は続伸。8時30分ごろに1ドル=108円78銭近辺で推移。前日から円高・ドル安が進んだ。
北朝鮮のミサイル発射を受けた日本へのマネー回帰の思惑から円買い・ドル売りが先行した。
ただ、円は急速に上げ幅を縮めており、朝方の勢いのまま円高が進展することはなさそうだ。
第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト、藤代宏一氏は「安全な円は買い戻しの対象」と捉えている。地政学リスクに晒されるなか、「なぜ日本円が買われるのか?」――。「それは基本的に『円が安全資産の性格を有しているから』と説明できる」と指摘。「しばしば取り沙汰されるマネーゲーム的な投機筋の売買が一因になっている可能性は否定しないが、それはごく一部を説明するに過ぎないだろう」とみている。
日本は経常黒字国で、その累積に相当する対外純資産残高は約350兆円、名目GDP比で約70%と巨額。IMFの集計ベースでは世界1位。マイナス金利導入国で、長期金利も極めて低いレベルにある。「日本に直接被弾するようなことがなければ、円が売られるような可能性は低いでしょう」と話す。
金価格、1年半ぶりの高水準で推移
一方、東京株式市場は2017年8月29日、日経平均株価が続落して始まった。始値は前日比130円79銭安の1万9319円11銭。北朝鮮をめぐるリスクが高まり、運用リスクを避けるための「売り」が先行。円高・ドル安の進展も悪材料となった。自動車株や金融株など主力株への売りが目立つ。一時は前日比169円88銭安の1万9280円02銭まで急落したが、その後押し戻す展開で推移している。
さらに、「安全資産」とされる金に投資マネーが流れ込んでいる。金価格は急上昇。東京商品取引所の金先物相場は、取引の中心である2018年8月物は一時1グラム4594円の高値で、中心限月としては4615円を付けた2016年3月14日以来、約1年半ぶりの水準まで上昇した。
「買い」優勢の状況で、11時50分現在に1グラム4592円で推移している。前日との比較では64円上昇。7月上旬の直近安値から2%超も上昇している。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物相場も、時間外取引で急伸。取引の中心である12月物は日本時間29日朝に一時1330ドルと前日の終値(1315.3ドル)と比べて15ドルほど上昇し、2016年11月9日以来、約9か月ぶりの高値を付けた。
北朝鮮リスクは高まるばかり。米国のトランプ大統領の「激しい警告」とともに、北朝鮮では9月9日に建国記念日を控えており、さらに緊張は高まりそう。まだまだ「有事の金」が買われる可能性がある。