帝王切開の実施率が高い欧米で、生まれたばかりの新生児に母親の持っている腸内細菌などを与えるため、新生児の皮膚に膣液を擦りつける「膣播種」と呼ばれる行為が流行しているという。
しかし、実際に何らかの効果があるかは不明で安全性も疑問視されているため、英国や豪州の産婦人科学会が2016年に英国医師会誌で警告を発表。2017年8月22日にはデンマーク産科婦人学会がリスク調査の結果を公表し、「実施すべきではない」と報告した。
帝王切開だと細菌叢が未熟?
「膣播種」が流行する要因となったのは、2014年に「帝王切開で生まれた子どもは喘息やアレルギーなどの炎症性疾患のリスクが高い」とする研究が発表されたためだ。
一部の研究者らは、帝王切開の子どもは母親から移入した有用な細菌の数が少なく、そのせいで腸内細菌叢などの形成に影響を与えているのではないかと指摘。帝王切開で生まれた新生児の顔や体に、綿棒で採取した母親の膣液を塗布するという実験を行ったところ、母親の細菌叢が子どもにも移入できたとしていた。
欧米では帝王切開の実施率が高く、英国では25~30%、デンマークも15~25%。帝王切開が子どもに与える影響を気にする親は少なくない。今回調査を実施したデンマーク産科婦人学会も、
「(デンマーク国内の)産婦人科医の90%以上が出産を予定している両親から膣播種の有効性を確認された経験があった」
とし、学会として正確な効果やリスクを検証する必要があると考えたとしている。
そして検証の結果わかったのは、膣播種に関する研究は前述の実験1例のみで、その被験者数はわずか4人。さらに膣播種の効果は検証されておらず、あくまでも母親の細菌叢と同じ細菌が子どもにも移ったかを確認したのみだった。
調査を行ったデンマーク、ノアシェラン病院のティネ・クラウセン医師は8月23日付のBBCの記事の中で「膣播種を行うことは一見自然を模倣するかのような魅力的な手法に思えるが、実態は何の裏付けもない行為」とコメント。さらに次のように話している。
「綿棒には出産時とまったく同じ細菌が含まれていない可能性があり、繁殖中に膣内の血液や羊水のために細菌がより希釈されている可能性もあります。とても何らかの効果があるとは考えられません」
それどころか、新生児が大腸菌やその他の有害な細菌、性感染症などに感染するリスクを上げているという。