豪華ゲストに感動ドラマの数々、そして初の当日発表(2017年8月26日)となった、「走る理由」を背負った芸能人による90キロマラソン――。日本テレビの「24時間テレビ 愛は地球を救う」は、今年も大々的に放送された。
その「裏」では30分だけの、障害者が主役のバラエティー番組「バリバラ」(Eテレ)が、これまた今年も話題を集めた。まるで24時間テレビの「アンチテーゼ」のような内容だ。障害者自身がこう問いかける。「障害者ががんばっているの見て、面白いですか」
夢は「野球がやりたい」本音は「ゲームでいい」
1年前、「バリバラ」では「24時間テレビ」の裏で「検証!『障害者×感動』の方程式」と題して30分生放送を行なった。出演者がおそろいの黄色いTシャツを着たり、地球を模した番組ロゴを用いたりと「24時間テレビ」に似せた番組作りをしつつ、内容面では障害者の話を感動仕立てにする「感動ポルノ」をバッサリ切り捨て、大反響を呼んだ。ただしNHKや番組では「24時間テレビ」を意識したかどうか明言しておらず、パロディーや皮肉の範囲と受け取れる。
そして2017年8月27日、「バリバラ」はまたも仕掛けた。今年も出演者は黄色いTシャツで登場。最初にテーマを「告白!あなたの夢は何ですか?」と発表した。「24時間テレビ」のテーマが「告白~勇気を出して伝えよう」だから、のっけから「先制パンチ」だ。番組MCの山本シュウさんは「『VS』じゃなくて『with』だと思っている」とは言ったが...。
番組では、障害者に夢を話してもらい、それをかなえようとスタッフが奮闘する「応援VTR」が流された。感動話のオンパレードかと思われるが、「バリバラ」では全く違う。 筋ジストロフィーで車椅子生活、指が少し動くだけという男性の夢は「野球がしたい」。そこでグラウンドを貸し切りにして、男性に何とかバットを持たせ、打席に立たせた。投手がバットに当てようと投げること72球目、ついに「コツン」と当たったボールが内野に転がった。車椅子を押してもらって1塁に向かうも、残念ながらアウト。でも、野球できてよかったね――。
「......あんまり楽しくない。やった感じがしなかった。(野球)ゲームでよかったんです」
そこで仲間たちと野球ゲームで対戦すると「こっちの方が、やってる感はあります」という。まさかの展開に、感動物語はお預けだ。
障害者本人と話さないと価値観の押しつけになる
脳性まひで、小学生のころに止められた山登りがしたいと語った男性を、番組スタッフは鳥取・大山に連れて行った。今度こそ、夢をかなえてあげたい。登山口にたどり着く手前に階段があった。スタッフは男性を車椅子から下ろし、上るよう促す。でも、うつぶせのまま動けない。「がんばれないな、これ。足が上がらんな」と困った顔を見せる。
山登りしたくないのかと聞くスタッフに、男性はこう答えた。
「自分で登りたいって言ってるわけじゃないし。景色が見られればいいかな」
そこでリフトを使って10分、あっさり頂上に到着。男性は見事な景観を眺め、満足そうだった。その時に出たセリフが、「障害者ががんばっているの見て、面白いですか」というものだった。
感動は、ない。でも映像では、障害を抱える男性たちの本来の姿、考えが分かった。ゲストでクリエーターの箭内道彦さんは、こう感想を述べた。
「したいこと、したくないことは個々に違うし、本人にちゃんと話さないと分からない。それがないと価値観や物差しの一方的な押しつけになっちゃう」
感動ゼロの障害者ストーリーに、番組に寄せられたツイッターの投稿は共感する内容が多い。
「感動より本音最高」
「障害者は感動の道具じゃない」
「他人が勝手に夢を決めるのやめましょう」
脊髄性筋委縮症のため寝たきりのお笑い芸人「あそどっぐ」さんは、「日本一長い3333段の石段を上りたい」と語った。もちろん自力では不可能、支援者がスタッフとヘルパーだけでは、体力的に最後までもたない。そこで、現地で「ちょっと手伝ってもらえますか」と大勢に声をかけ、協力してもらった。寝台に乗せられたあそどっぐさんが、いろいろな人の手を借りて上っていく。途中で運よく高校のサッカー部の合宿に遭遇し、トレーニングの一環として部員に手伝ってもらった。スタートから4時間で頂上に到達した。
「上ってきましたねーっ」と喜ぶあそどっぐさんに、スタッフから「あそ君は上ってないよね」と強烈に突っ込まれ、笑いが起きる。自然な会話だ。スタジオ内では「(障害者のために)やってあげた、ではなく一緒に(石段上りを)実現したのがよかった」と好意的な反応が出た、あそどっぐさんは再度「僕、寝ているだけなんで楽なんです」と笑った。緩い雰囲気の中にも、「お涙ちょうだい」を明確に否定して、障害者の本当の姿を知る大切さを伝えているようだった。