障害者本人と話さないと価値観の押しつけになる
脳性まひで、小学生のころに止められた山登りがしたいと語った男性を、番組スタッフは鳥取・大山に連れて行った。今度こそ、夢をかなえてあげたい。登山口にたどり着く手前に階段があった。スタッフは男性を車椅子から下ろし、上るよう促す。でも、うつぶせのまま動けない。「がんばれないな、これ。足が上がらんな」と困った顔を見せる。
山登りしたくないのかと聞くスタッフに、男性はこう答えた。
「自分で登りたいって言ってるわけじゃないし。景色が見られればいいかな」
そこでリフトを使って10分、あっさり頂上に到着。男性は見事な景観を眺め、満足そうだった。その時に出たセリフが、「障害者ががんばっているの見て、面白いですか」というものだった。
感動は、ない。でも映像では、障害を抱える男性たちの本来の姿、考えが分かった。ゲストでクリエーターの箭内道彦さんは、こう感想を述べた。
「したいこと、したくないことは個々に違うし、本人にちゃんと話さないと分からない。それがないと価値観や物差しの一方的な押しつけになっちゃう」
感動ゼロの障害者ストーリーに、番組に寄せられたツイッターの投稿は共感する内容が多い。
「感動より本音最高」
「障害者は感動の道具じゃない」
「他人が勝手に夢を決めるのやめましょう」
脊髄性筋委縮症のため寝たきりのお笑い芸人「あそどっぐ」さんは、「日本一長い3333段の石段を上りたい」と語った。もちろん自力では不可能、支援者がスタッフとヘルパーだけでは、体力的に最後までもたない。そこで、現地で「ちょっと手伝ってもらえますか」と大勢に声をかけ、協力してもらった。寝台に乗せられたあそどっぐさんが、いろいろな人の手を借りて上っていく。途中で運よく高校のサッカー部の合宿に遭遇し、トレーニングの一環として部員に手伝ってもらった。スタートから4時間で頂上に到達した。
「上ってきましたねーっ」と喜ぶあそどっぐさんに、スタッフから「あそ君は上ってないよね」と強烈に突っ込まれ、笑いが起きる。自然な会話だ。スタジオ内では「(障害者のために)やってあげた、ではなく一緒に(石段上りを)実現したのがよかった」と好意的な反応が出た、あそどっぐさんは再度「僕、寝ているだけなんで楽なんです」と笑った。緩い雰囲気の中にも、「お涙ちょうだい」を明確に否定して、障害者の本当の姿を知る大切さを伝えているようだった。