インターネット上で、見も知らぬ相手から無茶な行動を指示され、自傷行為や、果ては自ら命を絶つように誘導される――。あまりにも馬鹿げた話に聞こえるが、実はロシアをはじめ海外の少年少女に現実に起きている話だ。
キーワードは「青い鯨」。海外の各メディアはソーシャルゲームと表現しているが、楽しいゲームとは似ても似つかない。「管理者」がプレーヤーを自殺誘導する、恐ろしいものだ。
エスカレートする異常な要求
「マインドコントロール」という言葉を、しばしば耳にする。弁護士の紀藤正樹氏は東洋経済オンライン2017年4月12日付記事で、こう定義している。
「自分以外の人や組織が常識から逸脱した影響力を行使することで、意識しないままに自分の態度や思想、信念などが強く形成・支配され、結果として物理的・精神的・金銭的などの被害を受ける状態」
問題視されている「青い鯨」は、10代の若者をマインドコントロールのうえ最悪の結末に導く、おぞましいものだ。ロシアの英字紙「シベリアンタイムズ」は2017年2月27日、その恐ろしさを報じた。16歳と15歳の2人の少女が、14階建てマンションの屋上から投身自殺を図り死亡。別の日には15歳の少女が5階建てアパートから飛び降りて重傷、さらに14歳少女が列車に飛び込んで自殺した。少女たちは、SNSに痕跡を残していた。「もう終わり」「だんだん役立たずになっていくって感じない?」といったネガティブな内容だ。彼女たちを結びつけていたのが「青い鯨」だという。
複数の海外メディアによると、「青い鯨」はこういう仕組みだ。ロシアのSNS「VK」上で、ゲームの管理者と「死の集団」と呼ばれる参加者の間で行われる。参加すると管理者から日々、指令が送られてくる。これをこなすのだが、内容が異常だ。「毎日早朝4時20分に起床せよ」から「毎日ホラー映画を見よ」、そして「ナイフやかみそりで手や足に鯨の形を刻み付けよ」といった具合で、「証拠写真」をインスタグラムに投稿するよう要求する。そして開始から50日目に最後の指示が届く。「自らの命を絶て」と。
米国やインドでも被害、日本は?
荒唐無稽に聞こえるが、ロシアではこれまで130人もの犠牲が出たと報じられた。「管理者」は巧みにプレーヤーの子どもの心に入り込む。少女に「お前はデブだ」、少年には「お前は落ちこぼれだ」と罵倒する一方「選ばれしものの別の世界」があるとほのめかす。「青い鯨」を作った男はロシア警察に逮捕されたが、被害はその後も収まっていない。この男のほかに「管理者」となっている者が出ているのだ。
英デイリーメール紙電子版の2017年7月26日付記事によると、管理人として7人のプレーヤーの死にかかわったという別の男は、プレーヤーの1人の女性に対して、自殺をしなければ家族を殺しに行くと脅迫したという。ロシアにとどまらず、ウクライナや英国、米国、インドと世界中に被害が拡大している。
もはやロシアだけでなく、各国のSNSに多様な言語で「青い鯨」が出没していると推測される。ネット上の「管理者とプレーヤー」という閉じた空間に子どもを誘い込み、心理的に追い詰めていく犯罪行為。今のところ日本国内での報告例はないようだが、用心に越したことはないだろう。