子どもの頃、外で遊んでひざをすりむき、学校の保健室や家に帰って治療に使った「赤チン」。おそらく40代以上には懐かしい響きではないか。
傷口の消毒を目的に使われ、小学校に行けば半ズボン姿で膝やひじが「真っ赤」になった同級生がいた「昭和の風景」。時代は流れ、今では薬局の棚で赤チンを見つけることはまずできない。
原料は1973年頃に製造中止していた
東京都心のドラッグストアで、記者は店員に赤チンの有無をたずねた。案内された棚には、消毒液の製品が並ぶ。「もう大分前から赤チンは置いていなくて...今はこうした薬品になります」と説明してくれた。
別の店舗を訪ねたが、やはり扱っていなかった。在庫があれば取り寄せられるとの話だったので、全く手に入らないわけではない。それにしても、「あの薬は今」状態なのがはっきりした。
赤チンの正式名称は「マーキュロクロム液」。環境省が2015年12月1日に公表した「家庭から排出される水銀使用廃製品の分別回収ガイドライン」に、次のような説明文が掲載されていた。
「メルブロミン(水銀化合物)の水溶液であり、局所消毒剤として使用される。国内では原料のメルブロミンの製造は 1973年頃に中止されたが、一部の事業者によって輸入され、マーキュロクロム液の製造・販売も続けられている」
その事業者のひとつ、小堺製薬(本社・東京)にJ-CASTヘルスケアが取材した。同社では1952年頃からマーキュロクロム液をつくり始めた。原料の国内生産が中止となり、その後流通が減少した背景には、当時の社会問題だった水銀公害の影響が大きかったと担当者は話す。実際は公害で問題となった水銀と、マーキュロクロム液の水銀は成分が違い、今日生産しているマーキュロクロム液も、国が定めた医薬品の規格基準書「日本薬局方」にのっとっている。
また使用時に手や衣服に付くと、なかなか落ちない点も敬遠されるようになった理由だ。無色透明の消毒液が登場し、「赤チン」の需要は細っていった。