コメントは社会の気分を反映する
J-CASTニュースは創刊から読者コメントを掲載してきた。すべての投稿を編集部で見て、誹謗、中傷や差別的発言を非掲載としている。見落としもあるし、あえて掲載する場合もある。「これは削除だろう」というコメントが掲載されているのも、承知の上である。
1日数百本の投稿だから編集が可能となっている。一人でいくつものカウントを持って投稿している人がいる。「工作員」と呼ばれる人の存在もわかっている。これは間違いだな、と思う投稿も掲載する場合がある。
政治的に意見が分かれる記事に対するコメントは、内容についての意見が大きく分かれ、読者同士の討論が広がり、続き、激しい応酬もある。この過程で、誤った認識、情報が正され、少なくとも一般読者が見ると正否が判定できる場合が少なくない。編集部が指摘、修正するより、投稿・討論を読んで判断ができるのは素晴らしいことだと思っている。投稿者が連続して投稿する機会を摘んでしまうと、討論が成立しない。
一つの記事に長年、討論が続いている例もたくさんある。たとえば、「養老孟司超刺激発言『禁煙運動はナチズム』・・・」は10年前、2007年9月の配信だが、賛成者と反対者の討論は今年になっても続いている。コメント件数は2200件を超す。これも素晴らしいことだと思っている。
最近、死亡記事のコメント欄を「追悼」とした。寄せられる投稿は、コメント欄の時代から変化した。亡くなった人に対する読者の気持ちが投稿される。著名人に対して思いがけない体験を持つ人もいる。記事を補足する情報が読者から思い出として投稿される。小林麻央さん、野際陽子さんの追悼を読んでほしい。ネットは社会の気分、人々の気持ちを映す鏡である。ニュース記事では書き込めない、読者の気持ちが伝わってくる。
ネットは市民が発信することができるメディアである。マスメディアが情報発信を独占する時代でなくなったといわれる。ブログ、ツイッター、Line、Facebookなどで発信することもできるが、メディアのコメント欄への投稿も発信効果は大きい。ヤフーのコメント投稿が狙われるのも、発信が簡単であり、影響力を持つからである。
読者コメントはネットを歪めることもあるかもしれない。しかし、コメント投稿はネットに社会の気分を反映させる貴重な仕組みであると思う。その機会をなるべく残したい。
蜷川真夫(株式会社ジェイ・キャスト代表取締役、J-CASTニュース発行人)