奇妙な画像が、まとめサイトなどを通じて拡散している。
「有事の際に使用」
「1972/03/64 以降は使用しないこと」(原文ママ)
「尊厳扶助 政府有事宣言時フィルム」
数点の画像はいずれも、なんらかの映像からのキャプチャーらしい。あせた色調や、レトロな書体の文字は、いかにも古いテレビの放送らしい雰囲気をかもし出している。
「日本国が絶望的な状態に陥った時にのみ...」
「日本国が敵対勢力に対しいかなる事由をもって攻防を行おうとも 絶望的な状態に陥った時にのみ 政府の全権をもって すべての機関でこのフィルムを放映することを許可する」
問題の画像には上記の注意書きに続けて、こんな説明が。そしてこれに続き、(NHKのクロージング風の)はためく日の丸をバックに、こんなメッセージが書き込まれている。
「日本国はいまいかなる交渉攻防を行おうとも 平和的終結の見込みの無い状況に陥りました」
「わたくしたちの、領土、家族、財産 すべてを侵されようとも わたくしたちの魂までは決して侵されません」
淡々とした文体ながら、内容は非常に不穏である。
これらの画像は2017年5月ごろから、2ちゃんねる上で「日本の国家存亡に関わる非常事態宣言及び国家転覆の際に全チャンネルで放映される映像の一部」などといった触れ込みで突然書き込まれ始めた。
「これほんまになんやねん」
「ガチで怖いわ」
などと話題となり、その後も勢いは弱まったものの拡散され続け、8月に入っても「怖い話」系のスレッドにも投稿、さらにこれを元にしたまとめサイトなどにも掲載されている。
とはいえ、文章の内容や、明らかに存在しない「3月64日」という日付など、「不自然」な点が目立つ、という指摘も早くから相次いでいた。
正体は、ニコニコ動画のパロディー映像
結論から言うと、やはりこの画像は「フェイク」だ。
その正体は、2016年10月にニコニコ動画に投稿された「テレビ下北沢の一日2016秋」というタイトルの、テレビ番組やCMなどをパロディーにした映像の一部分を切り出したものである。映像ではバックに「蛍の光」が流れ続けるなど、さらに不気味だが、通して観ればジョーク動画だとすぐにわかる。しかし今回はキャプチャーだけだったために、「本物」と勘違いする人も出たようだ。
なおこのニコニコ動画の作品のさらに元ネタと見られるのが、米国のクリエイター、クリス・ストラウブさんが2016年にYouTube上で公開した「Local 58」という映像だ。地方局で深夜、放送事故で流れてしまった緊急番組――という設定で、やはり緊急事態に陥った米国で、「尊厳を保つための行動(=自殺)」を取るよう当局が呼びかけるというブラックな内容である。
問題の画像が話題になり始めた2017年5月は、北朝鮮情勢の緊迫が顕在化し、ミサイル落下などの非常時に政府が放送する「国民保護サイレン(Jアラート)」が話題になった直後だった。緊張はなおも続くが、こうした不安が拡散にも影響しているとも取れる。