国内広告代理店最大手、電通の株価が年初来安値圏に落ち込んでいる。2017年8月9日、6月中間連結決算(国際会計基準)の発表に合わせて12月期通期の業績予想を下方修正したことが投資家の売りを呼んだためだ。下方修正は海外事業の不調が主因だが、2016年発覚した、新入女性社員の自殺という痛ましい違法残業事件を受けた働き方改革も影響しているようだ。
下方修正の内容は、営業利益は従来予想比150億円減の1365億円で、前期実績比0.9%減と減益に転じる見通しだ。売上高は従来予想から455億円少ない9330億円(前期比は11.3%増)を見込む。電通は2016年12月期に「売上総利益」(売上高から売上原価を差し引いた粗利)の海外比率が54%と国内を上回っており、海外の状況が業績に与える影響が大きい。今回の下方修正にあたって電通は、消費財メーカーの大手広告主といった外資の顧客が業績低迷を受けて広告費などの「マーケティング予算」を見直す動きが顕著になっていることを反映させた、と説明している。
働き方改革
中間決算と通期の業績下方修正は、8月9日の取引終了後に発表された。これを受けた10日の株式市場では、電通株への売り注文が殺到。一時、前日終値比5.5%安の4850円まで下がり、年初来安値を更新し、翌営業日となる翌週14日の取引時間中に一時4805円、さらに翌週明け21日には4800円まで値を落とした。電通は近年、海外事業に成長の活路を求めてきただけに、期待に反する下方修正に対し、株式市場が素直に売りで反応した格好だ。
電通と言えば2016年、過労自殺した女性社員が労災認定されたうえ、厚生労働省東京労働局が法人としての電通と当時の上司を労働基準法違反の疑いで書類送検した(のち、法人を略式起訴、上司は不起訴=起訴猶予=)。これを受けて社長が引責辞任。「22時消灯」などを打ち出してできるだけ残業させない労働環境づくりを急ぎ、17年7月には「19年度までに14年度比で総労働時間を2割削減し、残業をほぼゼロにする」ことなどを柱とする労働環境改善に向けた基本計画を発表した。