AGA治療を遠隔診療で提供できるのか
正木医師が指摘した「利便性のみを追求することが目的になると、医療の本質から離れてしまう」という懸念は、遠隔診療をめぐる議論の中でもよく聞かれる。
記者も最初は自分自身が患者となった場合を考えず、遠隔診療で通院しなくてもいいのなら便利そうだ、医療費が下がるなら金銭的な負担も軽減されるなどと考えていたが、そもそも遠隔診療は専門医や医療機関がないような離島や地方に患者がおり、対面診療が難しい場合の代替手段として生まれたもの。「より便利にする」というよりも、「不便、不足を解消する」ことが目的だ。単なる便利な道具になってしまっては、時として医療の質の低下にも繋がり、そもそもの遠隔診療の価値の低下にも繋がりかねないだろう。
しかし、だからといってAGA治療には遠隔診療はそぐわないということでもない。正木医師が言うように正確で緻密な対面診療を踏まえ、症状がコントロールできている状態でのサポートやフォローアップとして遠隔診療を活用することは患者にとって十分に価値のあるものだといえる。遠隔診療に用いるデバイスなどを工夫することで、遠隔地や離島へ定期的に医師が出張診療などを行いつつ、適宜遠隔診療を通じて経過を観察するという方法も実現するかもしれない。「より便利にする」AGA治療も、そこでは成り立つといえるだろう。
組み合わせかたや運用方法の工夫によって遠隔診療の信頼性を高められる可能性は、AGA以外の診療科目も同様だ。5月30日に発表され6月9日に閣議決定された政府の新たな成長戦略「未来投資戦略2017」の中で、遠隔診療は健康寿命の延伸につながる重要な要素に挙げられ、かかりつけ医などの対面診療と組み合わせることでより効果的・効率的な医療ができるとし、「対面と遠隔の組み合わせ」を積極的に進めるとしている。
遠隔診療による服薬指導は検討が必要とされているが、血圧や血糖値の遠隔モニタリングなどは有効性や安全性に関するエビデンス(科学的根拠)を蓄積し、治療だけでなく予防医療に提供していくというプランもあるようだ。遠隔診療によって情報共有が容易になり、遠隔地にいる患者に対し別々の場所から複数の専門医や医療従事者が参加するチーム医療を提供するといったシステムも登場するかもしれない。
いずれにせよ、大切なのは信頼できるデータと医師の正確な対面診療に裏打ちされた遠隔診療をいかに実現するかということだ。医療の本質を捉えながらも利便性を兼ね備えた遠隔医療が提供される日も遠くないかもしれない。