医師不足・医療不足をテクノロジーで解決するのが理想形
では正木医師が考える、理想的な遠隔診療によるAGA治療とはどのようなものになるのだろうか。遠隔診療には大きく2つの考え方がある。ひとつは十分に医療が行き届かない地域に治療を提供するためのツールとして、二つ目は患者の通院負担を軽減するツールとしてだ。正木医師は前者のような医師不足、医療偏在をテクノロジーで解決することが、より理想的な遠隔診療だと感じるという。
「5月から南相馬市で避難所から自宅へ帰還した方々に看護師がタブレット端末を持って訪問し、端末を通じて医師が診察するという遠隔診療が始まったそうです。この方法であれば看護師が検査や症状の確認を行い、医師が診断するという対面診療に近い体制が実現します。素晴らしいことではないでしょうか」
確かに、この方法であれば得られる情報の正確性は保ちつつ、患者や医師の物理的な距離をテクノロジーで補うことができ、安全性や利便性の両立も可能になりそうだ。正木院長はさらにこうも話す。
「日本におけるAGA治療はここ10年で急速に広がり、身近なものになってきました。東京だけでなくさまざまな場所に専門のクリニックができ、自宅近くで診療が受けられる方も多くなってきたと思います。とはいえ、まだまだ新しい医療ゆえ、全国各地にAGA治療がゆきとどいている状況とはいえません。私たちのクリニックにもとても遠方から通院される方も多いですし、そのような方々にとって『遠隔診療』が助けになっていただければ、とても良いことだと思います。また、通院可能な範囲にお住まいの方であっても、少なくとも半年~1年程度の通院期間を考えた場合に、時として忙しく来院が難しい場合には、症状の安定度合いに応じ遠隔診療を組み合わせることは、治療を途中で滞らせないという意味でも良いことでしょう」
その逆に、利便性にのみ重きをおき、医師・患者双方が「楽をする」ことだけを目指す遠隔診療には賛同できないと話す。利便性だけが追求され、本来重要とされるきめ細やかな診断や患者と向き合う診療がないがしろにされてしまえば、治療効果や満足度の低下、副作用の危険性などもあり、AGA治療全体の質も低下しかねない。
「手軽にAGA治療を受けたいという患者様も確かにいらっしゃいますが、そうした患者様の気持ちを利用して、ただ手を抜いただけの治療を『遠隔診療』とするのは本質とは言えません。遠隔診療が注目を集める今こそ、その在り方をAGA治療に携わる医師がきちんと考えなければいけないと考えます。遠隔診療を患者様の診療に対する期待や満足にいかに近づけるかが、我々に問われているのだと思います。『遠隔診療』の名を借りた『無診察に近い診療』がまかり通ってしまうのは、AGA治療全体として好ましくありません」
正木医師のクリニックでは、2017年8月現在適切な治療経過の方に対してのみ遠隔診療を実施している。既存の通話機能を使った遠隔診療についてはこれまでも部分的に対応していたというが、この度の政府方針を受け、専用のスマートフォン用「遠隔診療支援アプリ」も独自開発し遠隔診療に導入をしている。
「遠隔診療支援アプリ」の画面