納豆や味噌などの大豆発酵食品は、高血圧を予防する可能性があることが国立がん研究センターの調査で明らかになった。その一方で、豆腐などの一般の大豆食品にはその効果は認められなかったという。同じ「健康食品」ではなかったのか?
研究成果は栄養学専門誌「Journal of Nutrition」(電子版)の2017年7月19日号に発表された。
大豆食品の中では別格の納豆と味噌
一般に大豆食品は健康によいとされているが、その中でも納豆や味噌などの発酵食品は、別格の健康効果があるようだ。しかし、その健康効果を大規模に調べた研究は意外に少なかった。納豆は世界的にはマイナーな食品だからで、「大豆食品一般」として研究されるケースが多いためだ。
「納豆」を「大豆食品一般」と区別し、改めて納豆の健康効果を調べたのが岐阜大学の永田千里教授らのチームだ。2016年12月に米栄養学専門誌「American Journal of Clinical Nutrition」に発表した論文によると、約3万人の食生活と死亡率の関係を調べた結果、納豆は心臓病や脳卒中で死亡するリスクを2~3割低下させることがわかった。一方、豆腐など「大豆食品一般」には死亡リスクを下げる効果は認められなかった。納豆はやっぱりスゴかったのだ。
この納豆パワーの源について、永田教授は論文の中で「納豆には他の大豆食品にはないナットウキナーゼと呼ばれる、強力に血栓を溶かす作用のある酵素が含まれています」とコメントしている。ナットウキナーゼとは、あのネバネバの成分だ。そして、大豆食品には「大豆イソフラボン」という健康効果があるとされる成分が含まれているが、永田教授は「大豆イソフラボンには心血管疾患の死亡リスクを下げる効果は認められなかった」と結論づけた。
国立がん研究センターの発表資料によると、この永田教授らの研究結果を意識しているようだ。研究目的について、「動物実験では大豆イソフラボンには(血圧の)降圧作用があることが報告されていますが、ヒトに対しては降圧作用がなかったという報告もあります。そこで、私たちは『(一般の)大豆食品』と『大豆発酵食品』を区別し、食品摂取量と高血圧の発症リスクの関係を調べました」とコメントしている。
主役・脇役たちが大活躍の納豆の健康パワー
調査は全国7カ所の保健所管内に住む40~69歳の男女4165人を対象に行なわれた。1993年の調査開始時点では全員正常な血圧だった。5年後に再び血圧を測り、その間の食生活を詳しく調べ、5年後の高血圧発症リスクとの関係を比較した。その結果、納豆や味噌などの大豆発酵食品をよく食べた人は、食べなかった人に比べ、約20%以上発症リスクが抑えられた。ところが、大豆食品をよく食べた人は食べなかった人に比べ、発症リスクはほとんど変わらなかった。
では、大豆発酵食品の何に効果があったのか。研究チームは発表資料の中でこうコメントしている。
「大豆イソフラボンは(発酵によって)イソフラボンアグリコンに変わります。アグリコンとは分子がバラバラになった状態のことをいい、イソフラボンが分解され腸に吸収されやすくなります。そして、イソフラボンは血管の壁が動脈硬化によって厚くなるのを防ぐ働きをすると考えられます」
つまり、もともと大豆イソフラボンには血圧を下げる作用があったが、そのままでは吸収されにくい状態だった。発酵することによって分解が進み、吸収されやすくなるわけだ。研究チームのコメントはこう続く。
「また、大豆発酵食品にポリアミンという細胞の増殖や分化を助ける成分が多く含まれています。これが(血管を若々しくさせ)降圧作用に影響を与えている可能性もあります」
納豆の健康効果には、主役の「ナットウキナーゼ」以外にも多くの脇役が活躍しているようだ。