「これはもう差別発言」 宮本輝氏「芥川選評」が大物議

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   第157回芥川賞に「真ん中の子どもたち」という作品でノミネートされた台湾生まれの作家・温又柔(おん・ゆうじゅう)氏(37)が、同賞の選考委員を務めた作家・宮本輝氏の「選評」にツイッターで怒りを露わにしている。

   「もどかしく悲しく怒りに震えました...」――。宮本氏の選評が2017年8月10日発売の月刊誌「文藝春秋」に掲載されて以降、温氏はこうした怒りのツイートを何度も投稿している。一人の作家をここまで立腹させる選評とは、いったいどんな内容だったのか。

  • 「真ん中の子どもたち」の選評が掲載された文藝春秋(2017年9月号)
    「真ん中の子どもたち」の選評が掲載された文藝春秋(2017年9月号)
  • 「真ん中の子どもたち」の選評が掲載された文藝春秋(2017年9月号)

「他人事を延々と読まされて退屈だった」

   第157回芥川賞は7月19日に選考会が開かれ、沼田真佑(しんすけ)氏(38)の「影裏(えいり)」が受賞作となった。選考委員を務めたのは、宮本氏をはじめ、奥泉光氏、村上龍氏、山田詠美氏ら現代文学を代表する作家10人。

   温氏は台湾・台北市で生まれ、3歳の頃に東京に引っ越し、台湾語混じりの中国語を話す両親のもとで育った。候補作となった「真ん中の子どもたち」は、台湾出身の母と日本人の父を持つ若者が自らの生き方を模索する姿を「母語」をテーマに描いた作品だ。

   この作品に対する宮本氏の選評は、次のようなものだった。

「これは、当事者たちには深刻なアイデンティティーと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって、同調しにくい。なるほど、そういう問題も起こるのであろうという程度で、他人事を延々と読まされて退屈だった」(「文藝春秋」2017年9月号より)

   こうした宮本氏の批評について、温氏は掲載誌の発売翌日にあたる8月12日未明(日本時間)、ツイッターで怒りを爆発させた。「どんなに厳しい批評でも耳を傾ける覚悟はあるつもりだ」と前置きした上で、

「でも第157回芥川賞某選考委員の『日本人の読み手にとっては対岸の火事』『当時者にとっては深刻だろうが退屈だった』にはさすがに怒りが湧いた。こんなの、日本も日本語も、自分=日本人たちだけのものと信じて疑わないからこその反応だよね」

と指摘。続くツイートでは、「おかげさまで炎は燃えあがる一方。ここが『対岸』かどうか、今に見ててね」と挑戦的な一言を送っている。

「選評を読んで絶句した」

   温氏はさらに、12日早朝にも「あぁ、また呼吸が浅くなる。半日たつのに、怒りがまだしずまらない。こんなに怒ったのはひさしぶりだ」と投稿。ただ、温氏の憤りに共感した一般ユーザーのつぶやきにリプライ(返信)する形で、

「その選考委員と似た考えを持つ方々を脅かしたいのでも貶めたいのでもない。ただ、分かち合いたいのです。だからのっけからはねつけられて、もどかしく悲しく怒りに震えました...でも、めげません!」

と前を向くような言葉も寄せている。

   一連の温氏の投稿はインターネット上で注目を集め、ツイッターやネット掲示板には、

「宮本輝ってこんな人だったのか。この無神経さでよく作家をやってるな」
「この論評自体は批判されて然るべきだし残念に思う」
「文学って、その対岸へと橋渡しをするようなものではないの?すべての物語は『他人事』だよ」

など、温氏に共感する意見が相次いでいる。

   そのほか、作家の星野智幸氏は12日のツイートで「これはもう差別発言」と指摘、詩人の文月悠光(ふづき・ゆみ)氏も「この部分、私も選評を読んで絶句した」と同日にツイートしていた。

「おかしなことは書いてない」との声も

   ただ、他の選考委員の批評を見ても、温氏の作品に厳しい意見はあった。例えば、次のようなものだ。

「『母国語』とアイデンティティーという切実なテーマだけが、ブルドーザーのように眼前に迫ってくる。これでは読者は怖くて飛び退くしかない」(吉田修一氏)
「既に自己の特異性を痛快にエッセイに書いた後、それをノベライズしても二番煎じを超えない」(島田雅彦氏)

こうした他の選考委員の意見を踏まえた上で、インターネット上には、

「対岸の火事だと思っている人の意識を変えることができなかった、力不足な作品だ、と言っているのであり、選評としてこれはアリ」
「宮本輝氏の選評は特におかしなことは書いてないと思う。ただ言葉足らずな印象を受ける」

と選評全体としては「問題ない」とみるユーザーも出ており、全体として賛否が分かれている印象だ。

   なお、温氏は17日に更新したツイッターで改めてこの問題に言及。「作品への評価ならどんな叱咤激励にも心して耳を傾ける」とした上で、

「『怒り』を表明したのは作品以前の問題と判断したからだ。日本で最も有名だと思われる文学新人賞の場に、あの選評を許容する余地があったことがショックだった」

と振り返っていた。

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