ついに朝日も「あやうさ」指摘 文大統領の「請求権」発言めぐり日本メディアが「総攻撃」

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   文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2017年8月17日に就任から初めて開いた記者会見で、徴用工問題をめぐる従来の政府見解を覆した。日韓の新たな火種になるのは確実で、読売新聞が「賠償蒸し返し」の見出しで発言を非難し、朝日新聞も社説で文氏の発言には「あやうさ」があるとした。

   日本メディアがそろって文氏の発言を批判するという珍しい事態だ。

  • 就任後初の記者会見に臨む韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領。(写真は大統領府の動画から)
    就任後初の記者会見に臨む韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領。(写真は大統領府の動画から)
  • 就任後初の記者会見に臨む韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領。(写真は大統領府の動画から)

2005年見解では3億ドルが「被害補償問題を解決する性格の資金が包括的に勘案」

   文氏は2017年8月15日に行った演説で、徴用工や慰安婦の問題について、

「被害者の名誉回復と補償、真実究明と再発防止の約束という国際社会の原則がある。韓国政府は、この原則を必ず守る」

と述べていた。

   日本は1965年の国交正常化時に締結された日韓請求権・経済協力協定に基づいて5億ドル(無償3億ドル、有償2億ドル)を韓国に供与。協定では、日韓の請求権をめぐる問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを確認すると定めている。日本側は徴用工の問題が起こるたびに、この点を強調してきた。

   韓国側も、少なくともこの点については日本側と足並みをそろえていたはずだった。05年に廬武鉉政権が示した政府見解では、元慰安婦や原爆被害者の個人請求権は失われていないと主張したが、徴用工については、日本から受け取った3億ドルを

「被害補償問題を解決する性格の資金が包括的に勘案されている」

として、徴用工の請求権問題は韓国政府が責任を負うべきだとしていた。当時大統領首席秘書官だった文氏は、この見解をまとめた官民「共同委員会」の政府委員メンバーだった。

   こういったことを念頭に、記者会見ではNHKのソウル支局長が韓国政府の具体的な対応方針を質問する中で、特に徴用工問題については、「特に大統領もよくご承知のとおり...」と念押ししながら、

「過去の盧武鉉政権の時、日韓基本条約で解決された問題であり、被害者への補償は、韓国政府が行うという結論を下している」

と認識をただした。

「両国間での合意が、一人一人の権利を侵害することはできない」

   これに対して文氏は

「両国間での合意(日韓請求権協定)が、一人一人の権利を侵害することはできない。両国間の合意があるにもかかわらず、徴用された強制徴用者個人が三菱などをはじめとする企業に対して有する民事的権利はそのまま残っている、というのが韓国の憲法裁判所や韓国大法院(最高裁)の判例(判断)だ。政府はそのような立場から、過去の歴史問題に取り組んでいる」

と述べた。

   徴用工問題をめぐっては、韓国の最高裁が2012年、「個人の請求権は消滅していない」とする判断を示している。これを機に、元徴用工や元女子挺身隊が日本企業を相手取って相次いで訴訟を起こしており、続々と日本企業が敗訴している。文氏としては、過去の政府見解を覆す形で裁判所の判断を追認したことになる。仮に日本企業の敗訴判決が確定すれば、その企業が韓国で持つ財産が凍結されるおそれも指摘されている。

   徴用工以外に慰安婦の問題も引き続き「火種」だ。慰安婦問題は、15年の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したとされているが、文氏は

「(1965年の日韓国交正常化に向けて行われていた)日韓会談当時には知らなかった問題だった。いわば、その会談では取り上げられなかった問題だ。慰安婦問題が知られて社会問題となったのは、韓日会談から後のことだった。だから慰安婦問題が(国交正常化に向けた)日韓会談で解決されたということ正しくないと思う」

などと主張。問題は未解決だとの立場をにじませた。合意については

「今、外交部(外務省)が自主的にタスクフォース(作業部会)を設置して、その合意の経緯(に検証)や評価について作業を行っている。その作業が終わり次第、外交部が方針を決める」

と述べ、現時点では大統領選で公約にしていた「再交渉」への言及は避けた。

日本メディアの反応に「保守・進歩問わず『日韓関係に火種』」

   日本の外務省は発言について韓国側に抗議しており、日本メディアも、総じて発言に批判的だ。読売新聞は1面に「徴用工『解決済み』覆す」、総合面で「韓国 賠償蒸し返し」の見出しで発言を批判。産経新聞は1面に「歴史戦」のマークつきで「文大統領『徴用工 個人に請求権』」の見出しで事実関係を伝えた。毎日新聞は総合面で「徴用工『火種』の恐れ」と題して発言をめぐる懸念を解説。日経新聞は政治面で「韓国大統領、政府認識覆す」の見出しで事実関係を伝え、「韓国不信、増幅する懸念 慰安婦に続き蒸し返し」と題した解説記事をつけた。

   朝日新聞は全国紙では唯一、この問題を社説で取り上げた。「徴用工問題 歴史再燃防ぐ努力こそ」の見出しで、文氏の発言を「あやうさを感じざるをえない」と指摘。日本側も「わだかまりをほぐすための方策を探り続けるのは当然の責務」だとしながらも、

「歴代政権が積み上げた歩みをまず尊重する。それが歴史問題の再燃を防ぐ出発点である」

と、判断を覆したことを疑問視した。

   こういった日本メディアの反応を、韓国メディアは

「保守・進歩問わず『日韓関係に火種』」(中央日報)

などと伝えている。全紙が「火種」という単語を使っているわけではないが、共通して文氏の発言がリスクになりうるという指摘をしている点に着目したようだ。

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