「記憶をなくすほど飲んでしまった」という声を時折耳にするかもしれないが、一般的に飲酒といえば記憶に対してネガティブなイメージがあるだろう。
実際にアルコールによって脳機能が低下することを示す研究や、過度の飲酒で脳萎縮が起き将来の認知症リスクが上昇する可能性を示した研究も存在する。イメージだけでなく実害も確認されている。
ところが、2017年7月24日に英エクセター大学が発表した実験結果は、「記憶力の向上」という真逆の効果を示したのだ。
パイント4杯で学習効果向上
研究はアルコールメーカーなどから資金援助をされているわけでもなく、研究者らが無類の酒好きというわけでもない。心理学部で中毒症状治療や薬物依存の研究をしているセリア・モーガン教授らのグループによって行われた。
実験はシンプルなもので、18~57歳までの母国語が英語の男女88人を対象に、自宅で英単語学習をしてもらうというもの。
学習はヘッドフォンで複数の単語を聞き取り、その単語の中に指定されたアルファベットが何個含まれていたかを答えるといったものや、被験者たちが聞きなれない新しい英単語を読み上げた後に間違った英単語が読み上げられ、どこが間違っているかを指摘するといった内容になっている。
被験者らは無作為に2グループに分類されており、学習後に一方のグループには好きなだけ飲酒するように指示し、もう一方には飲酒はしないよう指示。2時間ほど経った後もう一度単語学習を実施して就寝してもらい、翌日にもまた同じ単語学習を行った。
すると、飲酒を禁じられたグループでは学習結果に変化がなかったのに対し、飲酒を許されたグループでは酒量が多いほど先日よりも結果が良くなるという結果が確認されたのだ。
飲酒量の平均はアルコール量にして53.38グラム(ビール中瓶約2本)で、最大で82.59グラム(ビール中瓶約4本)摂取した被験者もいる。英国ならパイント・グラスで2~4杯というところだろう。
新しく学習しないので記憶しやすい?
なぜこのような結果となったのか。モーガン教授は記憶する際の脳の働きに、アルコールが影響した可能性を指摘している。
脳で何かを記憶する際は、「海馬」で新しく学習した「短期記憶」を「長期記憶」へと置き換えているが、新しく学習するものが多ければ長期記憶に置き換えるリソースがなかなか確保できない。
しかし、アルコールを摂取すると新しく学習したものが脳に入ってこない状態となるため、飲酒直前に学習した内容を長期記憶へ置き換える余裕が生まれているのではないかという推測だ。
とはいえ、記憶力を良くするために大量に酒を飲め、などとモーガン教授らは推奨しているわけではない。短期的な学習効果が向上しているとはいえ、その効果は限定的だ。また、アルコールによって悪影響がもたらされるのも事実であり、そのことが帳消しになるわけでもない。
捨て身の一夜漬け試験対策程度には使える......かもしれない。