チキンレース終了へのシグナルか、それとも全面対決の前触れか――米朝関係の緊張が続く中、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の「最新発言」が注目を集めている。
「ヤンキーの行動をもう少し見守る」――国営メディア・朝鮮中央通信は2017年8月15日、金正恩氏のこんな発言を掲載した。
米朝に見られた「変化」
金氏は14日、ミサイル運用を担当する朝鮮人民軍戦略軍の司令部を視察、かねてから進めているとされる米グアムへの「包囲射撃」作戦について説明を受けた。金氏は作戦が「極めて緻密(ちみつ)に、用意周到に」作成されていることを高く評価し、
「戦闘準備態勢と意気天を衝く姿を直接目のあたりにしてみると新しい決心を固めることになる、とても嬉しい」
と喜んだという。ところが一方、
「悲惨な運命の分秒を争うつらい時間を送っている愚かで間抜けなヤンキー(編注:米国)の行動をもう少し見守る」
「果たして今の状況がどちらにより不利なのかを明晰な頭で得失関係をよく計算してみる方がよかろう」
などと述べ、すぐには行動せず、ひとまずは米国側の出方を見る、としたというのだ。
7月28日深夜(日本時間)の大陸間弾道ミサイル発射実験以来、トランプ米大統領が「世界がこれまで見たことがない炎と猛威に見舞われるだろう」と牽制すれば、朝鮮人民軍は「金正恩同志が決断を下せば任意の時刻に同時多発的に、連発的に実行されるであろう」と、中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」によるグアム攻撃をちらつかせるなど、米朝の間には熾烈な「挑発合戦」が続いていた。8月15日が日本による統治が終わった「祖国解放記念日」として祝日となっていることもあり、この日が「Xデー」になるのでは、という見方もあった。
ここに来ての軟化は、金氏の「弱気」の表れなのだろうか。実は米国側にも、この数日、姿勢の変化が見られていた。
「IRBMの発射台を移動」報道も
現地時間14日付の米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、マティス国防長官とティラーソン国務長官は、連名で寄稿した。その中で、北朝鮮が攻撃に出れば「報復」は免れえない、と警告しつつ、核実験やミサイル発射などをやめれば、米国には交渉のテーブルに着く用意がある、としたのだ。
ポンペオ中央情報局(CIA)長官やマクマスター大統領補佐官といった政権幹部も、13日にそれぞれ出演したテレビインタビューで、差し迫った戦争の危機はない、と口をそろえた。ロイター通信など海外メディアはこうした動きを受けて、米側が北朝鮮への発言のトーンを「弱めた」との見方を伝えており、金氏の「もう少し見守る」発言は、こうした米側の姿勢を受けてのものとみられる。
一方で、米CNNは15日、米国防当局からの情報として、北朝鮮がIRBMの発射台を移動させるなど、引き続き攻撃の構えを解いていないことも報じており、情勢は不透明だ。たとえば15日放送の情報番組「ひるおび!」(TBS系)では、「コリア・レポート」編集長の辺真一氏、共同通信元平壌支局長の磐村和哉氏、国際ジャーナリストの春名幹男氏と3人の専門家が出演したが、今後のグアムへのミサイル発射の可能性を問われ、辺氏が「90%」としたのに対し、磐村氏は「60%」、逆に春名氏は「当面はなくなった」と答えるなど、識者の間でも「読めない」状況であることをうかがわせた。