2017年夏は、9月にかけて厳しい残暑が予想される中、「猛暑商戦」も熱気を増している。「涼」をキーワードにした商品、サービスが好調なのは相変わらずだが、一方で、夏の定番のビールは苦戦が伝えられる。猛暑は個人消費の押し上げにつながる期待があるが、一時的な「特需」のあとの反動減を心配する声も。
夏商戦と言えば、筆頭は白物家電だ。東京などは梅雨入りした後も暑い日が続いたことから、エアコンや扇風機、冷蔵庫の夏商戦の出足がよかった。エアコンは、人の位置をセンサーが感知して効率的に冷やしてくれるといった高級機種も人気といい、大手家電量販店では、店によっては前年同期比2割以上増えているという景気のいい話が飛び交い、前年より1割増産ペースを続けるメーカーもある。扇風機も、大手スーパーでは7月の売り上げが同5割以上増えた社もある。
家電、寝具、ビール類...
冷蔵庫は、気温が上がるほど、冷やす力が衰えた古い機種からの買い替えが進むといい、猛暑を見込んだ量販店などの事前注文の増加で6月の国内出荷台数が3割増えた(日本電機工業会=JEMAまとめ)。
こうした「夏家電」を中心に、白物家電全体の6月の国内出荷額は前年比9.5%増(JEMAまとめ)が好調で、特に中国勢などに押されていた日本メーカーも盛り返している。
布団の上に敷いて涼しく感じられる寝具も人気で、大手スーパーのイオンがプライベートブランド(PB)の「トップバリュ アイスコールド敷パッド」が前年の2倍以上の売り上げ。ドラッグストアでは、保冷スプレーなど着衣のまま清涼感が得られる商品が人気という。
一方、夏の定番、ビール類はパッとしない。6月から導入された酒類の安売り規制の影響が続き、メーカー各社の7月の販売数量は、アサヒがビール、発泡酒は前年比1%減、ビール類全体で横ばいにとどまったほか、サッポロは2%減と軒並み苦戦。規制導入月の6月はアサヒ11%減、キリン16%減など大幅に落ち込んだことから、「猛暑により、大分盛り返した」(業界関係者)とはいえ、なお厳しい状況が続いている。ただ、ビールに代わって、より割安な缶チューハイは好調。キリンは7月に缶チューハイを2割増産、サッポロも8月に主力商品を3割増産する計画といった具合だ。
猛暑で、もう一つのキーワードが「辛」。暑いときは辛い物の需要が高まることから、コンビニや外食などが新メニュー、新製品を投入している。ファミリーマートは従来より辛さを増強した韓国冷麺「激辛!!ビビン麺」(498円)を発売。つけ麺店「三田製麺所」は「灼熱まぜそば」を発売して好評という。東ハトはスナック菓子「暴君ハバネロ」シリーズに、発売中のラインアップの中で最も辛い「暴コーン」を発売している。
反動減に懸念も
ここにきて、猛暑はやや収まっているものの、気象庁の8~10月の3か月予報(7月25日発表)によると、8月は東日本の太平洋側を中心に晴れの日が多く、9月は全国的に厳しい残暑が見込まれ、関連業界は暑さによる消費の一段の盛り上がりに期待している。
では、猛暑の経済効果はどのくらいだろう。気象庁のまとめでは、東京の7月の平均気温は27.3度と、前年より1.9度も高いが、近年で最も厳しい猛暑に見舞われた2010年の28.0度には及ばず、2011、2013年と同じ。
第一生命経済研究所の試算では、7~9月の東京・大阪の平均気温が1度上がると、実質国内総生産(GDP)を3212億円、押し上げる。消費増に伴う輸入増の影響も考慮すると、2010年並の猛暑になった場合は、7~9月期の実質GDPを3072億円(0.2%)押し上げることになるという。関連業界などが期待するところだ。
ただし、猛暑の年は、夏が過ぎた後の10~12月期には反動も予想される。過去の記録的猛暑となった1994年、2010年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録したが、10~12月期は個人消費の落ち込みを主因にマイナス成長に転じている。
第一生命経済研は「マクロ経済分析レポート」(17年7月13日)で、「猛暑効果により売上を伸ばす財・サービスは暑さを凌ぐためにやむなく出費するものが多い。したがって、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がなされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想されるため、秋以降は注意が必要だろう」と警告。さらに、「夏の日照時間が増加して来春の花粉飛散量が増えれば、花粉症患者を中心に外出がしにくくなることからすれば、猛暑は逆に来春の個人消費を押し下げる可能性もある」と、来年まで影響が残る可能性も指摘している。