老後の資産形成のための制度である「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の加入者が、毎月3万人を超えるペースで増え続けている。加入者数は2017年6月末時点で約55万人に達した。
iDeCo は2017年1月から、加入対象者が大幅に拡大。公務員や専業主婦、すでに企業年金に加入している会社員など、従来は対象外だった人も含め原則20歳以上60歳未満であればほぼすべての人が加入できるようになった。16年12月末の加入者数は30万6314人だったが、半年でじつに24万人超も増えた。
3つの「効果」でオトク
個人型確定拠出年金「iDeCo」の仕組みは、掛け金を拠出する人(加入者)が銀行や証券会社などでiDeCo口座を開設。自分で決めた掛け金を毎月積み立てる。掛け金は、月々5000円から1000円単位で決められるが、自営業者や会社員、公務員など職業によって預け入れられる金額の上限が異なる。
拠出したお金は、銀行や証券会社などが提供する商品ラインナップの中から投資信託や定期預金などを、加入者自らが選んで運用する。ただし、個別の株式は購入できない。
給付金は、60歳以降に年金または一時金として受け取れる。ただ、その金額は、拠出した金額や資金運用の成果によって異なるのが特徴だ。
そうしたなか、iDeCoの利用者が急増しているのは、なぜか――。国民年金基金連合会は、「節税効果が最大のメリットです」と話す。公的年金の「補完的役割」を担える存在であることもある。
iDeCoの掛け金は、全額所得控除の対象となる。所得税や住民税は、所得から基礎控除や配偶者控除などの各種所得の控除額を差し引いた課税所得から計算されるので、所得控除によって課税所得が少なくなれば、納める税金は少なくなる。
つまり、掛け金が全額所得控除の対象であるiDeCoは節税につながり、オトクというわけだ。
加えて、通常であれば投資や運用で得た運用益には20.315%の税金がかかるが、iDeCoにはこの運用益に対しても税金がかからない。
さらに60歳以降に、積み立てた金額(年金)を受け取るときにも、一時金として受け取る場合には退職所得控除が適用され、年金として分割で受け取る場合にも公的年金控除を受けられるという「恩典」がある。その受け取り方も個人が選べる。
若者の加入者増える、転職時に「積立金」持ち運びも
年金というと、若い時からコツコツ積み立てておくことが必要だが、iDeCoの場合は40~50歳代からの加入者も少なくない。60歳から給付金を受け取るには10年の通算加入者期間が必要だが、「たとえば、iDeCoは公的年金が支給される60~65歳までのつなぎ資金として受け取ることもできます。税の恩典とあわせれば、50代の人でも加入するメリットは見込めます」と説明する。
月々の掛け金をみると、自営業者や学生らにあたる第1号加入者は5000円~1万5000円が48.9%を占めるが、一方で6万5000円も19.6%と多く、「自営業にとって、節税効果が大きいからでしょう」とみている。
一方、若者層もiDeCoへの関心を高めているようだ。国民年金基金連合会も、「若年層の加入者は増える傾向にあります」と話す。
ベンチャー企業や中小・零細企業などには企業年金がなかったり、あるいは転職先の会社に企業年金がなかったりするケースでも、iDeCoであれば、貯めた資金が持ち運びできる。「掛け捨ての状況で放たらかしにされることを防ぐことができます。それもあって、運用指図者(掛け金を払わず、貯まった年金資金だけを運用している人)の利用も少なくありません」と説明する。
とはいえ、iDeCoにも「弱点」はある。ひとつは積み立てをはじめたら、中途解約できないこと。もう一つは手数料だ。
iDeCoには、さまざまな手数料がかかる。主には国民年金基金連合会に支払う手数料と、iDeCo口座を開設する銀行や証券会社などに支払う手数料、投資信託で運用した場合の信託報酬、年金給付時の受け取り手数料がそれ。少額ではあるが、長期運用なので長い目でみるとかなりの差が出てくる可能性もある。
国民年金基金連合会への手数料は、加入手数料がある。初回時のみ最低2777円が必要。加えて、毎月103円(税込)の事務手数料がかかる。
委託先の銀行などには、月々ゼロ~600円程度の管理手数料が必要。また投資信託で運用する場合には、商品ごとに年数%の信託報酬がかかる。給付を受けるときにも手数料がかかる。たとえば、管理手数料がゼロ円でも給付時の受け取り手数料が高かったり、あるいはiDeCo口座を他の金融機関へ変更する場合に手数料を求められたりすることもある。
国民年金基金連合会は2017年8月1日から、新たにテレビCMを展開中。「PR効果で、さらに加入者を増やしていきたい」と話している。