安倍晋三政権が導入を目指す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」をめぐり、労組のナショナルセンター「連合」が大混乱に陥った。「残業代ゼロ」「成果型労働」などともいわれ、これまで反対の立場を堅持してきたが、執行部が一時、「容認」に転じる方針を打ち出したからだ。組織内外の強い反発で撤回を余儀なくされ、次期会長人事にも波及するなど、組織は大きな傷を負った。
労働基準法では、労働時間の上限は1日8時間、週40時間とされ、これを超える部分は割増賃金を支払わなければならない。高プロは、年収1075万円以上の外為ディーラーやアナリスト、コンサルタントなど高年収の専門職に限り、労基法の原則を緩めるもの。対象者は労働時間でなく成果に基づく賃金とし、残業、深夜・休日労働をしても割増賃金を払われなくなる。
「残業代ゼロ法案」と反発も
安倍政権は2015年4月、これを盛り込んだ労基法改正案を国会に提出したが、野党や連合、過労死被害者遺族らが「残業代ゼロ法案」と強く反発し、法案は実質審議されずに今日に至っている。
今回、法案成立の環境整備を進める狙いから、民進党の最大の支持団体である連合の容認取り付けを図り、連合の執行部がこれに乗ろうとしたが、内部の反発を受け頓挫した。
過労死の社会問題化と残業規制など働き方を変えていかなければならないという課題は、安倍政権であれ他の政権であれ、避けて通れない。高プロは、ホワイトカラーの生産性の向上のためという経済界からの要請があり、国際競争に勝ち抜く狙いも込めている。連合との関係でも、政労使が同じテーブルにつく中で「官製春闘」を進め、4年連続で一定の賃上げを実現するなど、政権と連合の信頼関係が醸成されたのも確かだ。安倍政権には連合を取り込むことで民進党を揺さぶる狙いもあるだろう。
一方の連合執行部は、2017年3月に政労使で「残業時間の罰則付き上限規制」で合意したことから、同じ労基法改正のテーマである高プロも、改正法案で一本化されるという見通しもあって、条件付き容認に舵を切ろうとした。一つの労基法改正案で、残業規制には賛成、高プロには反対という「股裂き」状態になるのを避けたいという判断だろう。
「容認方針」撤回に追い込まれる
具体的には7月13日に神津里季生会長が安倍首相に会い、条件付きで高プロを容認する意向を示した。具体的には、(1)年104日以上の休日、(2)労働時間の上限設定、(3)終業から始業までの間に一定の休息を確保する勤務間インターバル、(4)年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断――のいずれかを講じることを法案に盛り込むよう求め、安倍首相も基本的に受け入れた。神津会長は「残業時間の上限規制と(高プロ導入が)一本化され、強行されるとの危機感があり、少しでも改善できるなら、との思いだった」と説明。
だが、神津会長が次期会長に指名していた逢見直人事務局長が政府と水面下で交渉を進め、組織内の根回しは十分ではなかった。民進党とのすり合わせもなく突き進んだことで、傘下の産別組織、地方組織から反対が噴出。7月27日の連合中央執行委員会で、「容認方針」の撤回に追い込まれた。この余波で、秋に1期2年の任期満了で退任するとしていた神津会長は留任、会長に昇格するはずだった逢見氏は会長代行に就くことになるなど、混乱はなお尾を引く。
高プロを巡っての大手紙の論調は、推進・支持の日経、読売、産経に対し、反対・慎重の朝日、毎日という構図だが、7月28日~8月1日にかけて載った社説(産経は主張)は、それぞれの立場から、連合の対応の拙さへの批判では共通している。
連合が負った傷は深い。