前回の本コラムで、「加計学園問題は『絶好の教材』 問われるメディア・リテラシー」を書いたが、その最後のところで、前川喜平・前文科次官の規制改革に対する考え方として、2005年7月の規制改革会議の議事録をあげた。今日のコラムではその続編とともに、マスコミの争点ずらしを述べよう。
この議事録でわかるように、前川氏(当時は課長)は、規制の説明責任について、規制官庁にないという「暴言」を吐き、発言を打ち切られた。規制改革会議に出入り禁止になったわけだ。
規制改革会議の後日談
実は、この話には後日談がある。当時の規制改革会議には白石真澄さんが議長代理で参加していた。白石さんは現在、関西大学の教授で、2009年の千葉県知事選に立候補したこともあるが、容姿端麗な方だ。規制改革会議終了後、雑談の中で「白石さんはお美しいですね」とか、たわいもない会話があった。もちろん、これは単なるリップサービスに過ぎず、そのとき参加していた人間は誰も問題視していなかった。
ところが、その一連の会話を録音し、誰かがメモにして雑誌社に持ち込み、発言をねつ造し、「破廉恥な会話をしているのが、規制改革会議の実態だ」と、会議から2年後の2007年5月に週刊誌記事にさせた。
今となっては笑い話で済んでいるが、その当時は、大変な騒ぎだった。「こんな日常会話をリークされ、ねつ造記事がでるのは我慢できない」と、草刈隆郎さんをはじめとして規制改革会議メンバーが当時の規制改革担当大臣のところへ抗議までした。そして、文科大臣にまで抗議している。
文科省告示が直され、申請できるように
一体、誰がこんな情報をリークしたのか。内閣府内で会議のテープを保管している人間を調べればすぐにわかることだった。調査してみたところ、文科省からの出向者でした。さらによく調べてみると、その人物は、メールでこの情報を文科省に流したことまでわかっている。文科省内の『誰か』にわたり、その『誰か』が雑誌にたれ込んだのだ。
文科省のやり方はこんな具合だったが、それにしても前川氏は最近、マスコミにもあまりでない。本コラムを読んでいれば、前川氏の「行政がゆがめられた」というのは、50年間も新設学部の申請さえされない門前払いの文科省告示が直され、申請できるようになったという話だ。門前払いがおかしく、「ゆがめられていた行政」が少し直った程度だ。なので、さすがにマスコミももう使えないのだろう。
思い返せば、発端は、5月17日付の朝日新聞記事「加計学園の新学部『総理のご意向』 文科省に記録文書」である。
ところが、「総理のご意向」という証拠はまったく出ない。筆者は、「総理のご意向」がないことは、文科省と内閣府が公表に合意した特区会議の議事録を見ればわかると言ってきた。
ところが、朝日新聞は、「総理のご意向」が証明できないので、論点をずらしている。最近の記事では、「特区会議に加計幹部 議事要旨に出席・発言の記載なし」だ。
これで、議事録はあてにならないというイメージ操作をするが、文科省メモより、「総理のご意向」があったかどうかはより的確に判断できる。
そもそも、特区で提案者は今治市であり、オブザーバーである加計学園が議事録に載らないことは当然である。もっとも、議事録のあら探しのようであるが、ますます「総理のご意向」が入る余地がないことが分かるだけになっているのを朝日新聞は気がつかないようだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。