韓国通・黒田福美さんに聞く 韓国の人・魅力・付き合い方

提供:公益財団法人韓昌祐・哲文化財団

   俳優でエッセイストの黒田福美さんは、自他ともに認める韓国通だ。公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成金を得て『黒田福美の韓国ぐるぐる』を出版したこともある。現在、同財団評議員を務める。

   最近の日韓関係は必ずしも良好でない面もあるが、歴史的に長い交流のある両国は平和共存が本来の姿のはず。黒田さんにあらためて韓国の魅力や両国の関係改善などについてインタビューした。

  • 2001年にはソウルのミッション系私立大学、西江大学校(ソガンテハッキョ)語学センターに留学。本格的に韓国語を勉強。ソウルで下宿生活を体験した。
    2001年にはソウルのミッション系私立大学、西江大学校(ソガンテハッキョ)語学センターに留学。本格的に韓国語を勉強。ソウルで下宿生活を体験した。
  • 2001年にはソウルのミッション系私立大学、西江大学校(ソガンテハッキョ)語学センターに留学。本格的に韓国語を勉強。ソウルで下宿生活を体験した。

おおらかで、情が深くてストレート

――黒田さんが韓国に通い始めて、30数年になりますが、韓国の魅力は何でしょう?

黒田 「人」ですね。韓国の最大の観光商品は何か? と聞かれたらそう答えています。とにかく情が深い。泣いている人がいたら、日本人ならそっとしておいて折をみて近づくような距離の取り方があります。韓国人は「どうしたの?」とズバッと聞いて、「そんなことがあったの。かわいそうに」と身内みたいに接してくれる。おおらかで、情が深くてストレートなのです。

   2002年の日韓共催W杯の時、面白いことがありました。当時、韓国はホテルの建設が追いつかなくて、それを補うために観光客をホームステイさせるシステムをつくった。私も利用したのです。規約では、寝室と朝食を提供すればいいのだけど、それだけじゃ済まない。お母さんが迎えに来てくれ、夕食を食べさせてくださった。子どもたちもベタベタしてくるし、もう家族の一員みたいな感じ。日本人だったら布団を新調しなきゃとか考えるけど、そんな気張ったところはない。親戚を迎えるみたいに普段通り。帰りにはお土産をくださるし。これが韓国人なんですね。人をもてなすのが大好きで、人懐っこくて、警戒心があまりない。懐に入り込むと、そういう韓国人と触れることができます。

――黒田さんは、2009年度に公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成金で『黒田福美の韓国ぐるぐる』を出版しましたが、そのときに地方をかなり取材されました。印象に残っている出来事はありますか?

黒田 たとえば食堂に入って、韓国のアジュンマ(おばさん)たちが美味しそうなものを食べているので、「それ、何?」と聞いたんですね。そうしたら、「さぁさ、座って食べて行きなさい」といって、葉っぱに巻いて口に入れてくれたことがありました。

   また、旅先で困ったとき、アジュンマたちにずいぶん助けられました。10年ぐらい前、バックパッカーしたんですけど、わからないことがあると、いろんなアジュンマに聞いていましたね。外国人だとわかると、「案内してあげる」といわれることもあります。

   昔はソウルでもそういうことがあったのですが、今、そういう韓国人に触れたければ地方のほうがいいかもしれません。

メディアのイメージで行くと拍子抜けする

エッセイストとして『ソウルの達人 最新版』(講談社)など著作も多数。最近、『夢のあとさきー帰郷祈願碑とわたし』(三五館)を上梓した。
エッセイストとして『ソウルの達人 最新版』(講談社)など著作も多数。最近、『夢のあとさきー帰郷祈願碑とわたし』(三五館)を上梓した。

――地方の魅力に目覚めたのは、何がきっかけだったのですか?

黒田 慶尚南道の咸陽(ハミャン)にある棚田です。バスで移動しているとき、夕方、その棚田が目に飛び込んできたのです。ちょうど収穫の時期で、稲穂が夕陽に照らされて黄金色に輝いていた。それが何とも美しくて。

――地方でお気に入りの場所はありますか?

黒田 全羅南道の邊山(ビョンサン)、咸平(ハムピョン)にある海水蒸し風呂(ヘスチム)ですね。火でカリカリに焼いた硫黄を含んだ鉱石と、中国漢方の流れをくむ「韓方」の薬剤とをくみ上げた海水に入れる。海水は熱いぐらいに温められて、入ると温熱効果があります。目の前には海が広がって眺めもよくて、お勧めですよ。

――韓国に行くと、必ず食べるものは?

黒田 いろんな葉っぱに包んで食べるのが好きですね。豚肉を唐辛子味噌で炒めたものとか、いろいろな種類の塩辛、味噌、キムチなどを、種類の違う葉っぱで包んで食べると、葉っぱの風味によって違う味が楽しめます。

   そういえば韓国の人は食べ方も豪快ですね。日本人は、大きな口を開けて食べるのはお行儀が悪いと思うけれど、韓国の人は目をむくほどに大きな口をあけて一度に口の中に詰め込むのが流儀。今の中高年以上は飢えを経験しているので、頬張ることの幸せを噛みしめているような気がします。

――最近は、日韓関係の悪化の影響もあり、日本からの観光客が減っているようなのですが、黒田さんはどうお感じになりますか?

黒田 現在の韓国と日本の関係は、私が30数年前に韓国と関わり始めて以来、最大の嵐がきていると思います。でも私たちは本当に仲が悪いのかというと、そうじゃない。たとえば慰安婦問題で、日の丸を踏んづけたり燃やしたりしている人が韓国のすべてではない。日本だってそうでしょ。ヘイトスピーチをしている人が全部かというとそうではない。

   だから「韓国は怖いかも」いうイメージで構えて行くと、拍子抜けするかもしれません。日本人に対する感情がいいので。私たちも韓国人が日本に来たからといって、怒ったりしないでしょ? それと同じですよ。メディアが刺激的なシーンを切り取って報道するから、偏ったイメージになるのだと思います。

韓国人の懐に入っていくこと

――どうすれば、韓国の人たちと仲良くなれるでしょう?

黒田 やはり日本人が韓国人の懐に入っていくことだと思います。だって、私が韓国に行って、韓国の人たちと触れあったら、親切と情の嵐で迎えてくれるんですから。韓国の人は意外と生身の日本人を知らない。タクシーの運転手が言っていました。「日本人は、韓国人を支配したヒドイ民族と思っていたけど、実際に会ってみると、OLの子はかわいいし、約束を守るし」と。互いの民族のことを知って認識を変える瞬間って、ちょっとした出来事なんですね。だから接点をできるだけ持つこと。つまり韓国にできるだけ足を運ぶことだと思いますね。

   韓国の国土は日本の4分の1強で、コンパクトです。だからソウルから釜山までバスを使えば2,000円で行けます。ホテルなんか決めないで出かけても、入った食堂が民泊をやっていたりして、意外と見つかりやすいです。

――黒田さんは、日韓に関わる活動、研究をしている人々に助成金を出している(公財)韓昌祐・哲文化財団の評議員をされています。この夏、どんな助成金申請書が集まってほしいですか?

黒田 日本が韓国にかなわない素晴らしいものが3つあります。儒教、仏教、そして韓方です。日本人にとっては、中国由来の漢方薬が有名かもしれませんが、韓方が大邱(テグ)や山清(サンチョン)で発達しています。テレビドラマ『ホジュン(許浚) ~ 宮延医官への道』でも話題になりましたが、韓国での評価は、韓方医のほうが歯医者よりも上という認識です。歯医者の看板を目にするぐらいの頻度で韓方医の看板があります。この分野を研究するのも面白いかもしれません。韓国の儒教や仏教も掘り下げるにはいいテーマだと思います。

   あとは、私たちのように、韓国の人たちと交流していく者にとって参考になるような研究テーマがあるといいですね。

(文・西所正道/写真・菊地健志)

黒田福美さん
俳優・エッセイスト。1956年東京生まれ。桐朋学園大学短期大学部演劇科卒。78年に女優デビュー。84年に初訪韓して以来、テレビ番組、著書で韓国情報を発信し続ける。『ソウル マイハート』など著書多数。2002年、FIFAワールドカップ日本組織委員会理事。07年、韓国観光名誉広報大使。11年、韓国政府より「修交勲章 興仁章」を叙勲。現在、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団評議員。

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