自らに批判的な報道を「フェイク・ニュース」呼ばわりしている米国のトランプ大統領が、2017年8月6日(米東部時間)フェイスブック上で「リアル・ニュース」なる動画を打ち出した。
CNNでトランプ氏支持派として知られてきたコメンテーター、カイリー・マッキーナニー氏(29)が共和党全国委員会 (RNC)に移籍し、ニュース番組風の動画で「移民の増加は米国人労働者の賃金を下げてきた」といった典型的な「トランプ節」を展開したのだ。だが、トランプ氏が敵視してきたワシントン・ポストからは、早くも「リアル・ニュース」の内容が間違いだらけだという指摘が出ている。
「トランプ大統領は、明らかに経済を正しい方向に戻している」
動画の長さは約1分30秒で、週刊ニュースを扱う番組風に「雇用統計」「移民規制法」「ベトナム戦争功労者らの表彰」の3つのテーマを扱ったが、早くも正確さに疑問が出ている。
動画では、雇用統計について、
「7月の雇用統計によると、予想を上回る20万9000人の雇用が増えた。就任以来、トランプ大統領は100万人以上の雇用を創出した。失業率は16年ぶりの低水準で、消費者景気は16年ぶりの高水準。ダウ平均は最高値を更新し続けている」
などと事実関係を説明し、
「トランプ大統領は、明らかに経済を正しい方向に戻している」
と成果を強調した。これに対してワシントン・ポストは、(1)20万9000人の雇用が増えた(2)就任以来100万人以上の雇用を創出した(3)失業率が01年以来の16年ぶりの低水準、といった点に誤りはないとしながらも、「トランプ大統領は、明らかに経済を正しい方向に戻している」という主張には異議を唱えている。
オバマ政権末期の方が増加幅が大きい
米労働統計局の統計では、トランプ氏の大統領就任後の6か月で増えた雇用は107万人。ところが、オバマ政権の最後の6か月で増えた雇用は108万人で、トランプ政権よりもわずかに多い。そのため「雇用情勢はオバマ政権末期の状況が続いている」に過ぎず、雇用創出はトランプ政権の成果ではない、というわけだ。
「消費者景気は16年ぶりの高水準」という点にも「裏付けがない」と指摘。米民間調査機関「コンファレンスボード」が7月25日に発表した7月の米消費者信頼感指数のうち、「現況指数」が16年ぶりに高水準だった。トランプ氏側の動画ではデータの出典がないため正確なことは分からないが、この「現況指数」を念頭に置いていた可能性もある。ワシントン・ポストは、ミシガン大学が1952年から調査している消費者信頼感指数では、9か月ぶりの低水準だと指摘。トランプ政権になって「(16年ぶりではなく)13年ぶり」の高水準に達したのも事実だが、オバマ政権でもほぼ同じ水準まで高くなっていたとした。つまり、(1)トランプ政権下の足元の数字は低水準(2)高水準の時期もあったが、それはオバマ政権の成果であってトランプ政権の成果ではない、というわけだ。
本当に「移民の増加は米国人労働者の賃金を押し下げてきた」のか
「雇用活性化のための移民法改革法案」(移民規制法)については、トランプ氏側は
「数十年間にわたって、移民の増加は米国人労働者の賃金を押し下げてきた。法案は賃金を上昇させ、貧困を減らし、納税者にとって数十億ドルの節約になる」
と主張。ワシントン・ポストは、ハーバード大の経済学者が、スキルの低い移民が実際に米国人労働者の賃金を減少させるとの研究結果を発表しているものの、保守派のナショナル・レビュー誌を含む複数の論文が、「他に主な要因がある」などと調査方法に欠陥があるとしている。
「ベトナム戦争功労者らの表彰」の話題では、トランプ大統領が退役軍人の首に勲章をかける動画とともに、
「トランプ大統領は、退役軍人に対して全体として敬意を表しているし、それに加えて、数百万人の退役軍人が良い待遇を受けられるようにする改革プランでも、そうしている(敬意を表している)」
というナレーションが入った。だが、トランプ大統領が改革プランの法案に署名したのは6月23日。表彰自体は歴代の大統領がやっていることであり、それを踏まえてワシントン・ポストは
「ここで言う『リアル・ニュース』は、過去の大統領が行ってきた勲章授与の式典を利用したことだ」
と皮肉った。