ゴキブリと言えば、嫌われ者の代表格だが、植物には優しいコトもしていることがわかった。熊本大学の研究チームが世界で初めて、ゴキブリに種子を散布してもらう植物を発見した。
そればかりか、これまで植物の種子を散布する昆虫はアリの仲間がほとんどだったが、羽のある昆虫(ゴキブリ)が種子を散布する点でも二重の世界初の発見だ。この研究は、植物学専門誌「Botanical Journal of the Linnean Society」(電子版)に発表された。
果肉に味がなく鳥に嫌われた植物が選んだ相手
熊本大学の発表資料によると、研究をまとめたのは同大学大学院の杉浦直人准教授と大学院生の上原康弘さん。2人は熊本市内の森林で、ツツジ科の「ギンリョウソウ」という植物の果実に訪れる動物を突きとめるため、2年間昼夜を問わず観察した。その結果、鳥や動物は興味を示さず、モリチャバネゴキブリというゴキブリの仲間だけが果実を食べた。そして、種子が混じった糞をあちこちにまき散らした。
ギンリョウソウの果肉の中の種子は非常に小さい(長さ0.3ミリ・幅0.2ミリ)。モリチャバネゴキブリの糞の中にある種子を調べると、まったく消化されずに散布されることがわかった。モリチャバネゴキブリが果肉を食べる代わりに、種子を遠くまで散布する役割をちゃんと果たしており、両者は「ウィンウィンの共生関係」にあるという。
どうしてギンリョウソウがモリチャバネゴキブリを利用して種子を撒布するように進化したのか。杉浦准教授らは以下の点をあげている。
(1)鳥や哺乳類から見た時、果実が目立たない色で味もなく、魅力がない。
(2)しかし、果実の成熟期がちょうどモリチャバネゴキブリが羽化して栄養が必要な時期に一致する。
(3)種子が、モリチャバネゴキブリの消化管を通過できるほど微細である。
(4)種子が排出するまでの所要時間が3~10時間と長く、モリチャバネゴキブリが飛翔力にたけていることから、遠方まで種子を散布してくれる。
「汚い」「キモイ」という悪評は捨てて
こういった両者の特徴が一致して、互いに「かけがえのないパートナー」になったという。 杉浦准教授らは発表資料の中で「植物を昆虫との共生関係にはまだ誰にも知られていない『秘密』が隠されていると予測されます。ひっそりと暮らすゴキブリの生活の一端を示すとともに、汚い、気持ちが悪いといったゴキブリの悪評の改善に少しは役立つのかもしれません」