腰痛の大きな原因の1つに椎間板ヘルニアがある。椎間板とは、背骨の腰部の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨だ。椎間板ヘルニアとは、椎間板がすり減ったり裂けたりして、組織の一部が飛びだすことをいう(注:ヘルニアは『脱出・突出』の意味)。このとき、飛びだした破片の一部が神経を圧迫し、腰や足に激痛を起こす。椎間板はそのほかの腰痛とも密接にかかわっているため、椎間板の状態がよいことが腰痛防止につながってくる。
走る距離が伸びると椎間板が3割も大きく
同誌の論文によると、研究チームはランニングが椎間板に与える影響を調べるために、普段からランニングをしている人とそうでない人を合計79人集めて、次の3つのグループに分けた。
(1)ランニングを含め運動習慣がない人(ノースポーツ)。
(2)週に20~40キロの距離を走っている人(ジョガー)。
(3)週に50キロの距離を走っている人(長距離ランナー)。
そして、それぞれの人の腰の椎間板の状態をMRI(磁気共鳴画像)で検査した。調べたのは、椎間板の厚み(高さ)と、水分・グリコサミノグリカンの含有量だ。椎間板が分厚いほど丈夫で、クッションとしての役割を多く果たしていることになる。また、グリコサミノグリカンは骨や筋肉に含まれ、組織を結合させる働きがある成分だ。水分とグリコサミノグリカンが多いと、それだけ組織が弾力を持ち、若々しく強靭になる。椎間板が強化されるわけだ。
3つのグループを比較すると、次のことがわかった。
(1)椎間板は腰椎の間に計5つあるが、それぞれの厚み(高さ)は、ノースポーツに比べ、ジョガーは約7~23%、長距離ランナーは約9~27%高い。
(2)椎間板組織の水分・グリコサミノグリカンの含有量は、ノースポーツに比べ、ジョガーは約9%、長距離ランナーは約11%多い。
ランニングの縦方向の動きが椎間板を鍛える
5つある椎間板の中には3割近くも分厚くなるものがあるわけだ。走る距離が長い人ほど、椎間板が大きく丈夫で、健康的であることがわかった。よく走り過ぎると腰を痛めるといわれる。また、椎間板は腰を曲げたりひねったりして負荷をかけない方がいいともいわれる。どうしてこんな結果が出たのだろうか。研究チームのダニエル・ベラビー教授はこう推測している。
「ランニングは椎間板に垂直方向に負荷をかけるから、椎間板を鍛える結果になった可能性があります。ランニングで生じる縦方向の圧力が、椎間板の健康維持に効果的な圧力と同じレベルのため、椎間板が丈夫になったと思われます」