先進国の中央銀行の中で、日銀の出遅れ感が鮮明になっている。景気回復を背景に、米連邦準備制度理事会(FRB)に続いて欧州中央銀行(ECB)なども大規模な金融緩和からの「出口」を探り始めているのに、日銀だけは2%の物価上昇目標の達成がまったく見えない状況だからだ。日銀はこのまま大規模緩和の迷宮の中をさまようしかないのか――。
「デフレ圧力はリフレ(低インフレ)圧力に取って代わられた」。ECBのドラギ総裁は6月27日、ポルトガルで開いた政策フォーラムで、域内経済からデフレ懸念が払拭されたと明言した。市場はこの発言を「ECBが『出口』に向かうサイン」と受け止め、ユーロは急上昇した。市場では、ECBが9月の理事会までに現行の量的緩和策の縮小へカジを切るとの見方が大勢だ。
2%の物価上昇目標の達成時期を1年先送り
世界経済を大きく揺るがした2008年のリーマン・ショックから約10年を経て、欧米の中央銀行は、金融危機の緊急対策として実施した大規模な金融緩和の「手じまい」に動き始めている。
先頭を行くFRBは、2017年3月と6月に追加利上げを実施。大量の国債買い入れなどで膨らんだ資産の縮小にも、早ければ9月に着手する見通しだ。カナダ銀行(中央銀行)も6月12日、6年10か月ぶりの利上げに踏み切った。イングランド銀行(同)のカーニー総裁も6月末、英国経済の回復や足元の物価上昇を踏まえ、「金融政策による景気刺激策を一部撤回する公算が高い」と利上げの可能性を示唆した。
一方の日銀は、「出口」に向かうどころか、ますます遠のいているのが実情だ。7月20日に開いた金融政策決定会合では、2%の物価上昇目標の達成時期を、従来の「2018年度ごろ」から「2019年度ごろ」に1年先送りした。
「強力な金融緩和を粘り強く推進する」
黒田東彦総裁が2013年、2年での目標達成を掲げて「異次元緩和」に踏み切ってから4年以上がたったが、5月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は0.4%上昇と、目標の2%にはほど遠い。目標達成時期の先送りは実に6回目に達し、ゴールはまったく見えてこない。
黒田総裁は今回、7月20日の記者会見で「強力な金融緩和を粘り強く推進する」と述べ、早期の目標達成を目指す考えを強調した。しかし、過去の国債の大量購入で日銀の国債保有高は残高全体の4割に達しており、購入を増やし続けるのは困難。マイナス金利も金融機関の収益を圧迫すると大不評で、さらなる深掘りは難しい。日銀の手詰まり感は極めて強く、長期金利を0%程度に誘導する現状の政策を続けていくしかないのが実情だ。
そもそも、日本の物価が上昇しない背景には、人口減少で成長期待が持てない中、企業が賃上げに消極的であることなど、構造的な問題があると指摘されてきた。アベノミクスが日銀の大規模緩和や政府の財政出動に頼り切っている限り、欧米との差は開く一方となりそうだ。